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「――とは言ったものの、どうしよう」
家に戻った後、ベッドに寝転がりながら、オリジナルコマンドのことを考えていた。
ハヤトはクイックブーストだけでなく、すごいテクニックも持っている。そんな人に勝つコマンドとは一体どういうものなんだろう。
(クイックブースト……ぼくには絶対合わないコマンドだな)
レース中、ひたすら加速と減速を繰り返すのは、体に大きな負担がかかる。体の大きなハヤトには耐えられたとしても、ぼくの小さな体では難しいだろう。
ぼくの特徴。それは素晴らしく繊細にツバサをコントロールできること――ではなく、バランス感覚が異常に優れていること。どれだけ不安定な状況でも飛び続ける自信がある。
(この特徴を最大限に活かすコマンド……とすると、アレしかないか)
ぼくは使った時のことを想像し、げっそりした。とんでもない衝撃を受けることになるだろう。けどハヤトに勝つにはこの手しかない。
数日悩んだ後、ぼくは心を決めた。
放課後、三人それぞれが自分なりの結論を胸に抱き、イケちゃん先生のいる職員室へ向かった。
「どうやら、どんなコマンドにするか決まったようね」
イケちゃん先生が、ぼくたちの顔を見渡し、満足げにうなずく。
「ソラさんはオリジナルコマンドを作らないのね?」
「はい。対戦相手も使ってこないようですし、あのコースだとコマンドを使うタイミングもなさそうで。でも他に思い付いたことがあるんです」
ソラがあるアイデアをみんなに話す。
するとそれを聞いた先生が、目を妖しく輝かせた。
「ウフフフ、それは実験のしがいがあるわね。さ、早く。ランド・セイルを出しなさい!」
どうやら、先生の機械オタクスイッチを押してしまったらしい。リクと笑い合っていると、火の粉がぼくたちにも降りかかってきた。
「カケルくんとリクくん、何ボサッとしてるの! 早くどんなコマンドにするのか教えてちょうだい」
リクと二人で「ハイ!」と敬礼のポーズをし、急いでランド・セイルを渡した。
先生はカバンから、ノートパソコンを取り出し、ランド・セイルと接続する。それから、先生と色んな意見を交わしながら、自分たちだけのコマンドを作り上げていった。
途中、誰かの視線を感じて辺りを見渡すと、教頭先生がすごい顔でイケちゃん先生をにらんでいた。イケちゃん先生はランド・セイルに夢中で気づいていない。
(……あとで怒られたらごめんね)
窓の外に見える空が赤く染まった。それに負けじと顔を赤らめたイケちゃん先生が両手を掲げて言う。
「ようやく完成よ!」
作業が進むにつれてイキキしていく先生に反し、小難しい話を延々と聞かされたぼくたちはクタクタになっていた。
「うう……ありがとうございます。先生」
ぼくたちはそれぞれランド・セイルを受け取った。今日はもう帰ろう。そう思っていたら、先生が鼻息を荒くさせた。
「それじゃあ、早速テストをはじめましょう。これからグラウンドに集合よ!」
先生の言葉にヒザから崩れ落ちそうになった。その時、教頭先生がにこやかに近づいてきて、イケちゃん先生の肩を叩いた。
「――さ、さようなら、先生! また明日ね」
ぼくたちはペコリと頭を下げ、急いで職員室を去る。
学校から飛び立った時、どこからか怒声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。
次の日の放課後から、イケちゃん先生による鬼のような厳しい指導がはじまった(学校の仕事は急いで終わらせているらしい)。先生は、ランド・セイルについて一切の妥協を許さない性格みたい。
転校してきた時、ソラではなく先生に指導してもらいたいと思っていたけど、それは間違いだったようだ。
「えへ。これは絶対驚くに違いない」
練習中、ソラが悪そうな笑みを浮かべた。六年生チームはぼくたちに手の内を見せてくれたけど、ぼくたちのチームにそんな親切な人間は存在しなかった。
オリジナルコマンドの使い方をマスターした後は、徹底的に基礎を鍛え直すことにした。
何度かリクとソラに挑んでみたけど、結局一度も勝つことができなかった。けど、その差は回を重ねるごとにつまっていった。
――できることはすべてやった。あとは本番に臨むだけだ。
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