7話 誕生、ぼくだけのコマンド

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「――とは言ったものの、どうしよう」  家に戻った後、ベッドに寝転がりながら、オリジナルコマンドのことを考えていた。  ハヤトはクイックブーストだけでなく、すごいテクニックも持っている。そんな人に勝つコマンドとは一体どういうものなんだろう。 (クイックブースト……ぼくには絶対合わないコマンドだな)  レース中、ひたすら加速と減速を繰り返すのは、体に大きな負担がかかる。体の大きなハヤトには耐えられたとしても、ぼくの小さな体では難しいだろう。  ぼくの特徴。それは素晴らしく繊細にツバサをコントロールできること――ではなく、バランス感覚が異常に優れていること。どれだけ不安定な状況でも飛び続ける自信がある。 (この特徴を最大限に活かすコマンド……とすると、アレしかないか)  ぼくは使った時のことを想像し、げっそりした。とんでもない衝撃を受けることになるだろう。けどハヤトに勝つにはこの手しかない。  数日悩んだ後、ぼくは心を決めた。  放課後、三人それぞれが自分なりの結論を胸に抱き、イケちゃん先生のいる職員室へ向かった。 「どうやら、どんなコマンドにするか決まったようね」  イケちゃん先生が、ぼくたちの顔を見渡し、満足げにうなずく。 「ソラさんはオリジナルコマンドを作らないのね?」 「はい。対戦相手も使ってこないようですし、あのコースだとコマンドを使うタイミングもなさそうで。でも他に思い付いたことがあるんです」  ソラがあるアイデアをみんなに話す。  するとそれを聞いた先生が、目を妖しく輝かせた。 「ウフフフ、それは実験のしがいがあるわね。さ、早く。ランド・セイルを出しなさい!」  どうやら、先生の機械オタクスイッチを押してしまったらしい。リクと笑い合っていると、火の粉がぼくたちにも降りかかってきた。 「カケルくんとリクくん、何ボサッとしてるの! 早くどんなコマンドにするのか教えてちょうだい」  リクと二人で「ハイ!」と敬礼のポーズをし、急いでランド・セイルを渡した。  先生はカバンから、ノートパソコンを取り出し、ランド・セイルと接続する。それから、先生と色んな意見を交わしながら、自分たちだけのコマンドを作り上げていった。  途中、誰かの視線を感じて辺りを見渡すと、教頭先生がすごい顔でイケちゃん先生をにらんでいた。イケちゃん先生はランド・セイルに夢中で気づいていない。 (……あとで怒られたらごめんね)  窓の外に見える空が赤く染まった。それに負けじと顔を赤らめたイケちゃん先生が両手を掲げて言う。 「ようやく完成よ!」  作業が進むにつれてイキキしていく先生に反し、小難しい話を延々と聞かされたぼくたちはクタクタになっていた。 「うう……ありがとうございます。先生」  ぼくたちはそれぞれランド・セイルを受け取った。今日はもう帰ろう。そう思っていたら、先生が鼻息を荒くさせた。 「それじゃあ、早速テストをはじめましょう。これからグラウンドに集合よ!」  先生の言葉にヒザから崩れ落ちそうになった。その時、教頭先生がにこやかに近づいてきて、イケちゃん先生の肩を叩いた。 「――さ、さようなら、先生! また明日ね」  ぼくたちはペコリと頭を下げ、急いで職員室を去る。  学校から飛び立った時、どこからか怒声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。  次の日の放課後から、イケちゃん先生による鬼のような厳しい指導がはじまった(学校の仕事は急いで終わらせているらしい)。先生は、ランド・セイルについて一切の妥協を許さない性格みたい。  転校してきた時、ソラではなく先生に指導してもらいたいと思っていたけど、それは間違いだったようだ。 「えへ。これは絶対驚くに違いない」  練習中、ソラが悪そうな笑みを浮かべた。六年生チームはぼくたちに手の内を見せてくれたけど、ぼくたちのチームにそんな親切な人間は存在しなかった。  オリジナルコマンドの使い方をマスターした後は、徹底的に基礎を鍛え直すことにした。  何度かリクとソラに挑んでみたけど、結局一度も勝つことができなかった。けど、その差は回を重ねるごとにつまっていった。  ――できることはすべてやった。あとは本番に臨むだけだ。
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