7話 誕生、ぼくだけのコマンド

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 ついに体育祭当日がやってきた。  昨日早く寝たおかげで、疲れは少しも残っておらず、頭もスッキリしている。  ぼくはいつもの倍の量の朝ご飯をたいらげ、 「ごうちそうさまっ」  と手を合わせた。  ランド・セイルのバッテリーもぼくのお腹も充電完了。準備はばっちりだ。  キッチンに立ってお弁当を作るお母さんに「行ってきます」と声をかけた。お弁当は、お母さんが持ってきてくれることになっている。今から楽しみだ。 「カケル、行ってらっしゃい。今日は頑張りなさいよ」  お母さんはニコリと笑った。  いつもならもっと絡んでくるのに、今日はずいぶんあっさりとしている。けどその短い言葉にぼくは勇気づけられ、勢いよく家を飛び出す。 「カケル、行くわよ」  家の前、肩で切りそろえられた髪をフワリとなびかせ、ソラが待っていた。  ぼくはこくりとうなずき、一緒に飛び立った。  今日はここ数日で一番晴れ渡っている。絶好のランド・セイル日和だ。 「――宣誓! ぼくたちはスポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うことを誓います!」  酉紀(とりき)小学校すべての生徒がグラウンドに並ぶ中、生徒会長の宣誓によって運動会がはじまった。  生徒会長は宣誓を終えると、生徒たちの列に戻る。その最中、一瞬ぼくと目が合い、ニコッと笑った。 (まさか、ハヤトさんが生徒会長だとはね)  ソラに聞く所によると、ハヤトは上級生下級生を問わず、多くの女子に人気らしい。背が高く、さわやかな風貌の生徒会長。人気が出る要素はすべてそろっている。 「つまり、ハヤトさんに勝ったら、その人気はすべてぼくのものに……!」 「いや、応援していた子たちから、恨まれるんじゃないの?」  ソラの心無い言葉に、ぼくのやる気はちょっぴりそがれてしまった。  酉紀小学校の運動会は、学年単位で紅組と白組に分かれるのが特徴だ。 一年生と二年生、三年生と四年生、五年生と六年生がそれぞれくじを引き、組を分ける。今年は、二、四、五年生が紅組、一、三、六年生が白組となった。  ハヤトたちとは組も分かれた。リレーの勝敗は、紅組の勝利にも関係するかもしれない。 「――いよいよはじまりました、酉紀町立酉紀小学校の運動会。実況は放送部が務めさせて頂きます」  校舎の近くにある大きなテントを見ると、上級生と思われる女の子がマイクを握っていた。  実況まであるとは、なかなか本格的だ。 「今年もパブリックビューイングを使って、生徒たちの活躍を余すことなくお見せいたします」  え、パブリックビューイング!? 突如、校舎の壁に巨大なスクリーンが現れ、ぼくはギョッとした。 「さらにさらに! 今年は高解像度カメラを搭載したドローンも導入しました。運動会の最後を飾る、ランド・セイルのリレーでは、選手と一緒に飛びながら迫力ある映像をお届けします! どうぞご期待ください」  ……さすが最先端テクノロジーを実験している街。恐れ入った。
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