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「あーっと、五年生がひっかかってしまった! これで大縄跳びの優勝は六年生……いえ、まだ飛び続けています。これはすごい、歴代の最高記録を越えてきた!」
全学年対抗の大縄跳びからはじまった運動会。綱引き、玉入れなど、実況やライブ中継を除けば都会の学校と変わらない競技が続く。
ぼくは去年まで、運動会を体育の授業の延長のように淡々とこなしていた。けど今日は違う。手に汗握ることが多く、応援の声も自然と出てしまう。
「カケル、クールなキャラはどうした? ずいぶん熱くなってるじゃないか」
リクに脇腹をコツンとやられた。どうやら運動会が変わったわけではなく、ぼくの方が変わってしまったようだ。
何だか恥ずかしくなってリクにやり返していると、ソラが真剣な表情で近づいてきた。
「リク、カケル、これで午前中の競技は終わりよ。午後からもいくつか競技があるけど、わたしたちが参加するのは最後のリレーだけ。お昼をしっかり食べて、決戦に備えるよ!」
ぼくとリクは強くうなずいた。
昼食を取るため、応援に来てくれたお父さんとお母さんのいるテントに入る。冷たいお茶をのどに流し込むと、汗がどっと吹き出した。
(ふう……生き返る……)
すると、お母さんがニヤニヤ笑いながら、大きなお弁当箱を取り出す。フタを開けた瞬間、ぼくは思わず「おお!」と声を上げた。
海苔でくるりと巻かれた大きなおにぎり、香ばしいニオイのウインナー、フワフワのだし巻き卵もある。ぼくは勢いよく箸を進めた。
「カケル、朝も結構食べてたけど大丈夫? ちょっと食べすぎじゃないかしら」
「大丈夫大丈夫。これからもっとエネルギーを使う予定だから」
「最後の競技――ランド・セイルのリレーに出場するんだよな?」
お父さんはワクワクしたような目で言った。
「いやあ、お父さんは運動はさっぱりだったからな。玉入れとか、足が遅くても関係ない競技しか出ることがなかったんだよ。まさか息子が、ぼくの無念を果たしてくれるなんて……」
うう、とうめきながらお父さんが目頭を抑えた。
その遺伝のせいで、ぼくはこれまで苦労してきたんだけど。こっちが泣きたいぐらいだ。
「ただ、順位はどうあれカケルが楽しんでくれたらそれでいいぞ。お父さんもお母さんもそう思ってる。リレーではケガしないようにな」
「ありがとう……でもやるからには楽しむだけじゃ物足りない。必ず勝つ」
ぼくが不適に笑うと、お父さんとお母さんはプッと吹き出した。
……ちょっと今までのキャラと違うかったかな。ぼくは少しほほが熱くなるのを感じた。
「まもなく、午後の競技がはじまります。生徒のみんなは、所定の場所に集合してください――」
そろそろ集合時間だ。ぼくは大きく背伸びをし、立ち上がった。背後からお父さんの声がする。
「どうだい、カケル。いい街だろう?」
「うん。勉強に集中できそうにないけどね」
「それはよかった」
お父さんの質問。それはこの街に来た初日にしたのと同じもの。ぼくの答えは変わってしまったけど、お父さんは変わらず喜ぶ。
ぼくは勢いをつけてテントから駆け出した。
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