最終話 運動会、空駆けるリレー

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「最初に飛び出したのは六年生と五年生! 他のチームとの差をグングン広げ、校舎の中へ突入しました」  ぼくの目の前を六人の選手が通り過ぎ、校舎の中へ消えていった。  パブリックビューイングの映像が、選手を追いかけるドローンのカメラに変わった。 「リク、そのままダイチさんについていくんだ」 「ああ、あの場所まではな」  ぼくの声にリクは力強く返事をした。  ドローンのカメラおかげで、グラウンドにいてもダイチの状況を詳しく知ることができる。最先端技術に感謝だ。 「先頭を行くのは、六年生のダイチ選手、ほとんど並ぶ距離にいるのは五年生のリク選手だ。少しのミスも許されないこの狭いコースで、彼らは一体どういう戦いを見せてくれるのか!」  廊下の曲がり角が来るたびに、二人はターンを使って、鋭く方向転換を続ける。後ろに続く下級生の集団はあっという間に見えなくなってしまった。  リクとダイチは接近しているため、リクのランド・セイルのマイクがダイチの声を拾う。 「リク、やるようになったじゃないか」 「これぐらいで驚いてもらっちゃ困るぜ!」  実況の声が熱を帯びていく。 「このコース最大の難所……二階への折れ階段が近づいてきました! これまでは九〇度の曲がり角でしたが、ここは一八〇度。なんと二倍の角度! しかし、トップを行く二人は、さらに加速する。このままでは壁にぶつかってしまうぞ!」  グラウンドから見守る生徒や保護者から、不安げな声が上がった。 「リク、今の実況を聞いたか? どうやらオレたちが壁にぶつかることを心配しているようだぜ。お前はそろそろスピードを落とした方がいいぞ」 「そんな心配は不要だ。オレは、ここでアンタを抜き去る」  最高速度で折れ階段に突入する二人。まず動いたのはダイチだ。 「”ドリフトターン”!」  ダイチの背中にある一方のツバサの光が急激に大きくなり、一瞬で一八〇度方向転換する。 「ダイチ選手、見たことのないすごい動きだ!」 「……あれは独自開発したコマンド、いわゆるオリジナルコマンドですね。通常のターンよりもさらに多くのエネルギーを放ち、急激に方向転換するものでしょう」  イケちゃん先生の解説に、観客がどよめいた。 「見たかリク! このドリフトターンを破ることなどできまい」  自信たっぷりにダイチが言った――がすぐに困惑した声に変わる。 「……リクがいない。どこにいった!?」 「ダイチ、どこを見ている」 「上かっ!?」  リクの体がダイチの上を飛び越える。その先にあるのは硬いコンクリートの壁。このままではぶつかる――映像を見ているほとんどの人がそう思っているだろう。 「”エアリアルターン”!」  ぼくの耳にリクの声が届いた。  リクは前方に回転し、壁に両足をつける――同時に左右のツバサの光が大きくなっていく。水泳のターンにそっくりな動き。それを水の中でなく、空中でやってのけた。 「リク選手、さらにとんでもない動きだ!」 「あれもオリジナルコマンドです。通常のターンは、一方のツバサからエネルギーを多く放出することで方向転換しますが、これは全く違う発想。己の身体能力のみで体の向きを変え、左右のツバサから一気にエネルギーを放出させて強引に方向転換をしたのです」 「やるな、リク! だがオレの方が一歩早い。ここで勝負アリだ」  先に方向転換を完了したダイチは、二階へ向かう。 「……いや、まだ勝負は終わってないぜ!」  ツバサから放出されるエネルギーが爆発した瞬間、リクは壁を思い切り蹴る。一気に加速し、ダイチに並んだ。 「な、なんとリク選手、壁を蹴るエネルギーも上乗せし、一気に加速したぞ!」 「すごいでしょ? 何を隠そう、あのコマンドを開発したのはわたし――」 「そのままダイチ選手をかわす! 五年生がトップに躍り出ました!」  イケちゃん先生の言葉は、熱い実況と歓声にかき消されてしまった。  作戦成功だ。ぼくはニヤリと笑う。 「リク、やったな」 「ああ、ざまあみろってんだ!」  想像の世界の中で、ぼくとリクは拳同士をコツンとぶつけた。
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