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エピローグ
運動会が終わって一ヶ月後。
ぼくとソラは都会へ引っ越していくリクを見送っていた。
両親の運転する車に乗ったリクは、後部座席から身を乗り出して手を振る。ぼくとソラも、車が見えなくなるまでそれに答えた。
ソラは、ふうとため息をつく。
「……リク、行っちゃったね」
「うん。せっかく友達になれたのに残念だな」
「リクの方はそこまで寂しそうじゃなかったよね。もう少ししたら、都会でもランド・セイルを使えるようになるみたいだし」
イケちゃん先生の話によると、この街で様々な実験をしてきたおかげで、都会の一部地域でランド・セイルの使用が解禁されることに決まったらしい。
「この先、ランド・セイルのレースが色んな所で行われるようになってさ、全国大会が開かれるかもね」
「それはおもしろそうだ。リクとまた一緒に飛べるかもしれない」
ぼくたちはクスクスと笑いあった。
だがそれはもう少し未来の話だろう。ソラは寂しそうに目を伏せた。ぼくはなるべく明るく声をかける。
「そんなに寂しそうにしてるなんて、リクのこと好きだったの?」
「ないない。言ったでしょ? わたしは知的なのがいいって」
ソラが急にぼくをジッと見つめた。そして、照れているような怒っているような不思議な表情を浮かべて言う。
「……好きなタイプに、わたしより背の高いことも追加する」
吐き捨てるように言った後、”フライ”と唱えて飛んでいってしまった。
「ちょっとソラ! この後、お祭りの案内してくれるんだろ? 待ってくれよ」
リクとレースをした時に聞いた、酉紀城で毎年開かれるお祭りの話。今日がそのお祭りの日なのだ。
ぼくが案内してほしいと言ったことを、ソラが覚えてくれてたので。これから一緒に回る予定だったのだが――、
「カケル、追いついてこれないなら、案内してあげないからね」
ぼくは温かいため息をつき、”フライ”と唱えた。
すっかり見慣れた田んぼや畑の横目に加速を続けた後、急上昇する。そこは見渡す限り広がる空の世界。ぼくは赤いランドセルに向かって空を駆ける。
ランド・セイルのことを知らない誰かが、今のぼくを見たらなんて何て言うかな?
――あ、飛行機だ。
――いや、あれはUFOだよ。
きっと色んなものに見えることだろう。
「できれば、鳥のように見えたらいいね」
ぼくは子供っぽい夢を語った幼い自分に、そう笑いかけた。
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