1話 未確認飛行少女、現る

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「何一人で事故ってんの?」  女の子があきれた様子でぼくをのぞき込んだ。肩の上でそろえられた髪がフワリと揺れる。 「……キミ、さっき空を飛んでいたよね?」 「うん。それがどうかした?」 「ランド・セイルって本当に存在するんだ……」  ぼくは彼女の背負う赤いランドセルを見る。そこにはツバサの形をした小さな機械が取り付けられていた。解説動画で見たものとそっくりだ。  彼女はぼくの驚き様に首をかしげた後、何かに気づいたように声を上げる。 「あ! もしかして、あなたが都会からの転校生?」 「そうだけど……なんで知ってるの?」 「連休前に、先生から転校生が来るって聞いてね。ふうん、あなたがそうなんだ。同い年って聞いてたけど、何年生? わたしより背が低いし、年下の間違いだったのかな」  ぼくはまだ成長期が来てないので背は低い方だ。この先、うんと大きくなる予定である。  いきなりぼくを年下扱いするなんて、失礼な女の子だな……ちょっとかわいいけど。 「ぼくは五年生だ。名前はカケル」 「やっぱり同い年なんだ。わたしはソラ。よろしくね」  ソラと名乗った女の子は、ぼくをジロジロと見つめる。 「それで、引越し早々、こんな所で何してたの?」 「そうだ! 学校へ行かなきゃならないんだった」  危ない危ない。目的を忘れる所だった。  ぼくは倒れた自転車を起こす。学校までのルートを確認するため、スマホを取り出した瞬間、  ――プン。  と小さな音がして、スマホの画面が真っ黒になった。 「……バッテリー切れだ」  そういえば、二、三日充電してなかったっけ。  自転車でコケてケガがなかったのはよかったけど、運を使い果たしてしまったらしい。  ぼくはがっくりと肩を落とした。  ソラは何かを考えるように少し黙った後、口を開く。 「それじゃあ、わたしが学校まで案内してあげる」 「え、いいの?」  口調が乱暴なだけで本当はいい子なのかな? ぼくはありがたくソラの申し出を受けることにした。 「それじゃあ、わたしについてきて。”フライ”!」  かけ声とともに、ソラの体が浮かび上がった。  すごい……って見とれてる場合じゃないぞ。ぼくは自転車をこぎ、ソラを追いかける。  ソラは道案内がしやすいように、さっきより低い高さをフワフワと飛んだ。飛ぶスピードも自転車に合わせてくれているようだ。  曲がり角に来るたび、ソラは方向を指示する。 「ここは左に曲がって」 「次は右」 「あとはまっすぐ」  スマホのルート案内みたいだ。ぼくはクスリと笑いながら、ソラの後を追う。  もしぼくも空を飛べたなら、木や建物に邪魔されることなく、学校まで一直線に行けただろう。飛行機の『航路』のような目的地までまっすぐ飛ぶルート。きっと五分もかからない。  しばらく進むと、ぼくがこれから通うことになる酉紀(とりき)小学校が見えてきた。あともうちょっとだ。 「よーし、到着。”ストップ”」  校門をくぐると、ソラが地上に降り立った。  ぼくは校舎を見上げる。都会の学校はビルのように大きかったけど、ここは二階建て。緑色の三角屋根がついていて、学校というより大きな家みたいだ。 「えっと、ソラさん。先生に呼ばれてるんだけど、職員室ってどこにあるの?」 「こっちこっち」  自転車置き場に自転車を置くと、今度は職員室までのルート案内がはじまった。  職員室は玄関を抜けてすぐの場所にあった。ソラがコンコンと軽くノックをし、ドアを開ける。 「失礼しまーす」  ぼくとソラの声が重なった。こういうあいさつは都会も田舎も変わらない。  職員室の中を見渡すと、若い女の人の姿が見えた。この人が担任の先生か。優しそうな雰囲気でちょっと安心。 「あなたがカケルくんね。それで……なんでソラさんも一緒なのかしら?」 「いやあ、たまたま途中で会いまして。道が分からないようだったので、案内してたんです」 「あなたが誰かに親切にするなんて、めずらしいわね」  先生にそんなこと言われるなんて、ソラは普段どういう女の子なんだ……。  先生はぼくに視線を移し、ニコリと笑みを浮かべる。 「はじめまして。わたしは五年生を担任している池畑(いけはた)と言います。これからよろしくね」 「こちらこそよろしくお願いします」  ぼくは少し緊張しながら頭を下げた。 「……みんなはイケちゃんって呼んでるよ」  とソラがこっそり耳打ちしてきた。  先生にも聞こえていたようで「先生をあだ名で呼ぶのは止めなさい」とたしなめられた。  ぼくは思わずクスリと笑った。
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