1話 未確認飛行少女、現る

5/5
前へ
/45ページ
次へ
「今日来てもらったのは、これを渡したかったからなの」  イケちゃん先生が持っているのは、ツバサの形をした機械。ソラのランドセルについているものと同じだ。 「これがランド・セイルなんですか?」 「ええ。このツバサ型の機械がランド・セイルの本体。どんなカバンにも取り付けられるのよ。わたしは――ほら、仕事用のカバンにつけてるわ」  先生の視線の先を見ると、小さな革のリュックにツバサがついていた。 「この街で、ランド・セイルの実験を行っていることは知ってるわね?」  ぼくはコクリとうなずく。 「あなたが住んでいたような都会で、いきなりみんなが空を飛びはじめたら危ないから、各地で実験を行ってるの。酉紀(とりき)町では特に子どもを対象とした実験に力を入れててね。みんなランド・セイルを使って登下校してるのよ」 「自転車より断然早いしね」  ソラがランドセルをこちらに向け、手を動かした。それと連動するようにツバサも動く。 「なので、カケルくんにも実験に協力してほしいというわけ。お父さんから許可はもらってるわ」 「え!」 「うん? どうかしたの?」 「いえ……何でもありません」  まったく。お父さんはいつも重要な話を言い忘れるんだよな。 「じゃあ早速取り付けるわよ。カケルくんのランドセルを貸してくれる?」 「はい。お願いします」  ぼくは背負ってきたランドセルをイケちゃん先生に渡した。すると、先生の目つきがギラリと妖しいものに変わる。 「ウフフフ。これを、ああしてこうして……」  ぼくはギョッとして、ソラの耳元でささやく。 「ねえ、先生の様子が急に変わったんだけど」 「イケちゃんはものすごい機械オタクなの。機械をいじりはじめるとキャラが変わるんだよね」 「へ、へえ……」  先生の第一印象を修正。優しいけど、ちょっと変な人だ。  しばらく待っていると、先生がランドセルを誇らしげに頭上へ掲げた。 「よし! 取り付け完了!」  先生が異常なほどワクワクした目でぼくを見る。……なんだか怖い。 「それじゃあカケルくん、さっそく初期設定をはじめましょう」 「新しくスマホを買った時みたいですね」 「スマホの設定よりすごいわよ。最先端のテクノロジーが詰まってるからね」  先生にうながされ、ぼくはツバサがついたランドセルを背負う。重さは今までとあまり変わらない。 「――アナタのオンセイをトウロクします」 「うわっ! コイツしゃべった」  ランド・セイルから機械の音声が流れ、ぼくはびっくりした。先生がその様子を見てクスリと笑う。 「ランド・セイルは、音声と体の動きでコントロールするのよ」  さすが最先端テクノロジー。SFの世界みたい。  音声案内に従って、ぼくはランド・セイルに自分の声を登録した。他にも様々な設定があり、先生に手伝ってもらいながら、進めていった。  ……たしかにスマホよりややこしいぞ。 「ふう、やっと終わった」 「カケルくん、お疲れ様。あとは飛び方を教えるだけね」  突然、ソラが手をビシッと上げた。 「先生! その役、わたしに任せてもらってもいい?」 「え、あなたが?」 「子ども同士の方が、気を使わずにできると思うので」 「そうね……」  イケちゃん先生は顎に手をやり、少し考え込む。 「カケルくんの気持ちはどう?」 「そうですね……できれば」  先生に、と答えようとした瞬間、足先をギュッと踏まれる。振り向くと、ソラがニコニコしてぼくを見ている。 「……わたしに教えてほしいって言いなさい」  ぼくだけに聞こえるように、ボソッと一言。 「できれば……ソラさんに教えてもらいたいです」  この女の子、やっぱりとんでもない性格だ! 「まあ、ソラさんはランド・セイルを使うのがすごくうまいからね。指導をお願いしようかしら」 「へへ、任せてください」  ソラが自慢げに胸を張った。 「今日は休みだけど、グラウンドを自由に使っていいわよ。二人とも、ケガには十分気をつけてね」  はいっ、とソラが背筋をピンと伸ばして返事をした。  ぼくはこの先、一体どうなってしまうんだろう……。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加