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2話 ようこそ、空の世界へ
イケちゃん先生と別れた後、ソラにつれられ学校のグラウンドに出た。
「へえ、ここのグラウンドは土なんだ。それにすごく広い」
「土以外のグラウンドなんてあるの?」
「前の学校では、土じゃなくてゴムだったよ。陸上競技場みたいなの」
「さすが都会はすご……」
ソラが途中で言葉を止め、コホンと咳払いした。
「今日からわたしがキミの師匠よ。ビシバシしごくから、覚悟しなさい!」
いつの間にか、ぼくはソラの弟子になっていたらしい。
先ほど、都会を褒めようとした時に言葉を飲み込んだのも、師匠としての威厳を保つためだろうか。
また足を踏まれても困る。こういうタイプの子は、話を合わせておくのが一番だ。
「師匠、空を飛ぶ前に一つ質問が」
「うむカケルくん。何かな?」
師匠と呼ばれ、ソラの笑みが二割増しになった。
「ランド・セイルという名前は、ランドセルから来てるんだよね? 小学校を卒業したらランドセルは使わなくなるし、変な感じがする」
「ああ、ランドセルには本来『背負うカバン』という意味があるの。だから、どんなカバンにつけても変じゃない」
「なるほど。たしか、セイルの方は――『船の帆』という意味だっけ?」
「よく知ってるね」
「英語は得意だから」
「わたし、苦手なんだよね……」
ソラはがっくりと肩を落とした。師匠の威厳は早くもなくなりそうだ。
「帆は、風の力を受けて船を走らせるもの。ランド・セイルも何かの力を受けて飛ぶってこと?」
「その通り。さて、その力とはなんでしょう? ヒントは方位磁針。五秒で答えなさい」
……急にクイズコーナーがはじまったぞ。
方位磁針は、磁石を使った方角を知るための道具だよな。
たしか地球が大きな磁石になっていることを利用している。とすると――。
「地球の持つ磁石の力、『地磁気』を受けて飛ぶのか」
「……正解。チッ、まさか当ててくるなんて」
不正解だったら、何かするつもりだったのか……。
「ランド・セイルは地磁気の力を受け、それに反発する力を出しながら飛ぶの。まあ簡単にいえば、磁石同士が反発する性質を利用してるわけね」
ぼくは理科で習った磁石の実験を思い出した。学校の授業もたまには役に立つもんだな。
「仕組みはなんとなく分かった」
「それじゃあ、実践に移るよ」
突然、ソラがぼくの手を握った。思わずドキッとしてしまう。
「――ちょっと、何赤くなってんのよ! 初心者はうまく飛べないから、こうやって一緒に飛ぶのが普通なの」
「なんだ、驚かせないでよ」
そういうことは先に言ってほしいものだ。まったく、ドキドキして損したじゃないか。
「先生が言ってた通り、ランド・セイルは、音声と体の動きでコントロールするの。まずは基本中の基本。飛びたい時は『フライ』と唱えるだけよ」
そういえば、ソラが飛ぶ時に言ってたな。あれはランド・セイルをコントロールするための命令だったのか。
「それじゃあ、私と一緒に言ってみて」
「りょーかい」
「いくよ。せーの……」
「”フライ”!」
叫んだ瞬間、ぼくの体は地球の重力の支配を逃れ、ふわりと浮かび上がった。
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