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「うわ、本当に浮いた!」
背中を見ると、ツバサが青色に輝いている。ぼくのランドセルと同じ、好きな色だ。
「こういう声を使った命令のことを『コマンド』というの。いくつか種類があるから、しっかり覚えて」
「りょーかい」
何だかゲームに出てくる呪文みたい。
飛ぶためのコマンドはフライ、フライ……。よし、覚えた。
「じゃあ、まずは――」
「へ?」
ソラがぼくの手を勢いよく引っ張る。
「このまま飛ぶよー!」
ソラにつれられ、ぼくはさらに上昇する。あっという間に学校を見下ろせる高さに到達した。周りに大きな建物がないので、遠くの山々まで見渡すことができる。
ぼくとソラは、グラウンドの上空をトラックに沿って飛んだ。ソラの言ってた通り、自転車よりも速い。
振り返ると、飛んだ軌跡がレーザー光線のように光っていた。しばらく見ていると、光はどんどん薄くなっていき、空の中に溶ける。
「地上に降りる時のコマンドは、『ストップ』よ」
コマンドを唱えると、ぼくたちはゆっくり降下していき、グラウンドに着地した。
ソラとつないでいた手を離すと、ぼくは自分の胸に手を当てる。心臓の鼓動が激しい。
「どう、ドキドキした?」
「うん。ソラさんと手をつないだ時より」
「……それはそれでイラッとするわね」
ソラが怒った表情でぼくを見た。
ドキドキし過ぎてつい軽口をたたいてしまった。……いや、冗談ではないかも。
「次はツバサのコントロールの方法。ツバサをうまく動かせるようになれば、三六〇度好きな方向に飛べるよ」
ソラがくるりと背中を向けた。腕を上下させると、ツバサが同じように上下する。
「へえ、腕の動きとツバサが連動してるんだ」
「うん。慣れてくればこんなことだってできる。”フライ”!」
ソラは強く地面を蹴ると、宙返りをして着地した。すごい。体操選手みたいな動きだ。
ぼくの驚いた様子を見て、ソラは「へへへ」と満足げに笑った。
「ま、ここまでできるようになるのは、ずいぶん先の話ね。まずは――」
ソラは再びぼくの手を握り、”フライ”と言った。ぼくも慌ててコマンドを唱える。
「びっくりさせないでくれよ!」
「あはは、油断しない。さっき失礼なこと言ったお返しよ」
ソラは先ほど飛んだ時に比べ、ずいぶん低い高度で静止した。
「まずは、一人で浮かんでいられることが目標ね。わたしがゆっくり手を離すから、うまくバランスを取ってみて。もしバランスを崩しそうになったら、すぐにストップと唱えること。安全装置が働いて、ゆっくり着地できるから」
ソラの顔から笑みが消えていた。ぼくも気を引き締めて「りょーかい」と答えた。
彼女は簡単そうに空を飛んでいるが、一人で飛ぶのは相当難しいのだろう。
ぼくは大きく深呼吸をし、集中する。
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