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プロローグ
毎日、ただぼんやりと過ごしてきた。
朝起きて学校へ行く。授業を受け、放課後に友達と遊ぶ。家へ帰ると宿題をして眠る。
次の日もその繰り返し。
退屈な毎日というのは、とてつもなく長く感じる。
もしかして、ぼくだけ時間が止まってるんじゃないか? そう疑うほどだった。
だから、この街に来て空を飛べるようになった時、すごく驚いた。
ワクワクしていると、時間があっという間に過ぎていくことに。
お母さんがよく「あら、もう一年経つのね」と言うのは、毎日ワクワクしているからかもしれない。
……いや、これは年を取っただけか。
「カケル! なにボーッとしてるの? そろそろはじめるよ」
ソラの声に、ぼくはハッとした。
おっといけない。これから大事な勝負があるんだった。
ぼくは青色に輝く『ランド・セイル』を背負った。晴れた空と同じ色がとても気に入ってるんだ。
目を閉じ、背中に意識を集中させる。手の動きに合わせてツバサがスムーズに動くのを感じた。
よし、準備完了だ。
審判をつとめるソラが、コホンと咳払いをした。
「二人とも準備はできたようね。先に校門をくぐった方が勝ち、いいわね?」
ぼくはうなずき、隣に立つリクを見た。
勝負の相手は、ニヤリと自信有りげな笑みを浮かべる。
「転校生、勝つのはオレだ」
「それはどうかな」
正直、実力差は大きい。けど、簡単にあきらめてたまるもんか。
ソラはぼくとリクの準備が整ったことを確認し、戦いのはじまりを告げる。
「それじゃあ、位置について……よーい、スタート!」
ぼくとリクは同時に叫ぶ。
「”フライ”!」
瞬間、ぼくの体は地面を離れ、あっという間に二階の屋根を越える高さに到達した。
そして、背中のツバサをコントロールしながら、街の上空を飛んでいく。
リクの姿が見えない――どこだ?
「オレの前は飛ばせないぜ、転校生!」
ぼくの頭上から、リクが前へ飛び出してきた。
速い。けど、勝負ははじまったばかりだ――。
小学五年生の夏、ぼくはある田舎の街に引越し、空を飛ぶツバサを手に入れる。
すごく簡単にいえば、これはそういう話。
ただ、一言だけでは正確に伝えることができない。これから本一冊分は語らせてもらうつもりだ。
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