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3話 街上空、はじめてのレース
「――カケルと言います。都会から引越してきたので、分からないことが多いですが、よろしくお願いします」
イケちゃん先生にうながされ、教室に足を踏み入れたぼくは、みんなの前で自己紹介をした。
アニメやマンガの世界でお決まりの儀式。まさか自分がそれを行うことになるなんて、と不思議な気持ちになった。
「自己紹介ありがとう。カケルくんの席はあそこよ」
先生が指差したのは、窓際の空いている席だった。
隣はどんな子かな。視線をずらすと、そこには――、
「カケル、ここよ、ここ」
ぼくの机を指差すソラの姿があった。
酉紀小学校は一学年に一クラスしかない。ソラとクラスメイトになることは分かってたけど、席が隣になるのは予想外だ。
「まさかお隣さんとはね。ランド・セイルをまともに使えるようになるまで、毎日しごいてやるわ」
ソラは満面の笑みを浮かべた。
やれやれ。どうやら、ぼくはこの女の子と不思議な縁があるらしい。
一時間目の授業が終わると、クラスメイトが一斉にぼくの席へと集まってきた。
「毎日満員電車に乗ってたんよね? すごいなあ。ぼくなら息ができないよ」
「都会にはコンビニの横にコンビニがあるんだよな? 意味が分からないぜ」
「インターネットで買い物したら、その日に商品が届くって本当? わたし信じられない」
いや……ぼくに聞かれても困るんだけど。
都会から来た転校生がめずらしいのだろうか。まあ、チヤホヤされるのは、ちょっと心地いい。ニヤニヤしそうになった時、心の中に存在するもう一人のぼくが語りかけてくる。
――ここは、都会から来た大人っぽい少年という設定でいくべきだ。
大人っぽいという印象により、ぼくの身長は一〇センチ伸びて見えるだろう。
ぼくは口元をひきしめ、クラスメイトの質問に対して、クールに受け答えた。
「そんなの都会なら当たり前さ」と。
休み時間になる度、クラスメイトがやってきて、おかしな質問が繰り返された。
ぼくがみんなに冷凍庫ぐらいクールな受け答えをしている中、一度も質問の輪に入ってこないヤツがいた。
教室の一番後ろで、どっしりと構えた背の高い男子。
いかにもスポーツができそう。つまりぼくと正反対のタイプだ。
「なあ、リクは転校生に聞きたいことはないのか?」
ぼくと話していたクラスメイトが、その背の高い男子に言った。名前はリクというらしい。
「別にいい。都会なんてキョーミねえし」
リクは、ふんと鼻を鳴らして、ぼくをにらんだ。
(……え、なんか嫌われてる?)
ぼくは、春の日差しのようなやわらかい笑みをリクに向けて放った。もちろん効果はなく、さらにキツクにらまれてしまうのであった。
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