3人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
4話 超加速のコマンド
リクに負けた次の日。
帰りの会が終わると、ぼくは机の中から教科書を取り出し、ランドセルの中にしまっていく。今日は使う教科書が多かったから、背負うとズシリと重く感じた。
隣の席を見ると、いつの間にかソラがいなくなっていた。
(あれ? さっきまでいたのに)
教室を見渡すと、教卓の前で手招きするソラの姿があった。イケちゃん先生と何か話している。
ぼくは小走りで二人に近づいた。
「イケちゃんに、カケルのランド・セイルのカスタマイズをお願いしてたの」
ソラがカスタマイズしてくれるんじゃないのか。あれだけ自信満々だったのに。
「カケルくん。登下校に使うだけなら、カスタマイズなんか必要ないと思うけど……何かあったの?」
「実は、昨日リクとレースをして――」
ぼくはイケちゃん先生に、レースに負け、一週間後に再戦することを伝えた。先生はウンウンとうなずきながら、楽しそうに話を聞いていた。
「――なるほど。カスタマイズして、リクくんとの実力差を埋めたいってことね」
「はい。ぼくにはカスタマイズの知識はないですし、ソラもできないようなので」
チラリと隣を見ると、ソラはばつが悪そうな顔で口笛を吹いた。
「そういうことなら、協力するわよ。小学生にはちょっと難しいからね」
「先生、ありがとうございます」
「イケちゃん太っ腹!」
これでリクとの勝負に希望が見えてきたぞ。
それにしても、小学生にはカスタマイズが難しいということは――。
「リクのランド・セイルは誰がカスタマイズしたんだろ?」
「ああ、わたしよ。この前頼まれたの」
……あなたがぼくの敵を強くした犯人ですか。
「それで、カケルくんはどのタイプに変えたいのかな?」
ぼくは静かに教室内を振り返り、リクが教室にいないことを確認した。手の内はなるべくさらしたくない。
「――スプリントタイプにしたいと思います」
はじめてカスタマイズのことを聞いた時から決めていた。
自慢じゃないが、ぼくは足がすごく遅い。あまりの遅さに『居眠りする亀』と言われたこともあった。だから、ランド・セイルぐらいは早く飛びたいのである。
「わたしも賛成。スラロームタイプに変えて小回りが利くようになっても、ツバサのコントロールが苦手なカケルには使いこなせないと思う。スプリントタイプはスピードが速い分、バランスを取るのが難しい。けどカケルになら使いこなせるはずよ」
「……どうやら決まったみたいね」
ぼくとソラは、イケちゃん先生に向かってコクリとうなずいた。
「それじゃあ、ランド・セイルをここにおいて。ウフフフ、楽しみだわ」
先生の目が怪しく光った。どうやら、機械オタクの血が目覚めたようだ。
しばらく教室の中で待っていると、先生が「終わったよ」と声を上げた。
ぼくは先生からランド・セイルを受け取る。カスタマイズの前後で特に変わった様子はない。
「カスタマイズと言っても、ツバサに何かを取り付けたりするわけじゃないのよ。変えたのは外側でなく中身。システムの部分だからね」
スマホのアップデートみたいなものか。
ノーマルタイプとの違いは、実践で確かめるとしよう。
「ソラさん、タイプごとに使える『専用コマンド』の説明はあなたからお願いね」
「はい! 任せてください」
ぼくとソラは先生にお礼を言い、教室を後にする。
専用コマンド? 何のことだろう?
最初のコメントを投稿しよう!