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7話 誕生、ぼくだけのコマンド
「オリジナルコマンドを作るなんて反則よ!」
六年生チームと別れた後、ソラの怒声がグラウンドの上空を激しく舞った。
リクが厳しい表情を浮かべる。
「あれに対抗するには、テクニックをいくら磨いても仕方がないな。カケルはどう見た?」
「うん、リクと同じ意見だ」
ぼくはあごに手をやり、思い付く限りの策を語る。
「……六年生のメンバーは、全員体が大きかったよね? 彼らはコマンドを使う時、バッテリーの消費が大きいはずだ。ぼくたちの方がコマンドを使える回数が多い分、有利に働くんじゃないかな」
「それは違うよ。カケルとリクが戦ったコースと比べて、リレーのコースは短い。よほどコマンドを連発しない限り、バッテリーが切れることはないわ」
「……こちらもオリジナルコマンドで対抗するしかないか。けどマイさんと違って、プログラマーの知り合いなんていないよね」
お父さんもお母さんも大学は文系。まともにパソコンやスマホを使っているのを見たことない。
ぼくたちは同時に大きなため息をついた。
「ねえ、ソラ。イケちゃん先生はオリジナルコマンドを作れないのかな? ほら、機械オタクだし」
「いくら何でも無理でしょ。公務員なんだから」
……公務員は関係ないと思うけど。
「まあ、いいじゃん。ダメ元で聞いてみようぜ」
「そうね。どうせ当てはないんだし」
ぼくたちは重い足取りで職員室へ向かった。
「――オリジナルコマンド? ええ、もちろん作れるわよ」
「へ?」
イケちゃん先生から返ってきた答えに、ぼくたちはぽかんと口を開けたまま固まった。
「元からあるコマンドだけじゃ物足りなくてね。ほら、これなんかすごいわよ。スマホと連携させて、音声でルート案内してくれるコマンドを作ったの」
先生が自分のランド・セイルに向かって”ナビゲーション”とコマンドを唱えた後、目的地を伝えると、スピーカーから方角と距離の案内が返ってきた。
「飛行中にスマホを確認するのは危ないし、わざわざ止まって確認するのも面倒だからね。遊びに行く時にすごく便利なのー」
ぼくたち三人は顔を見合わせた直後、みんなで先生の手を握る。
「イケちゃん! わたしたちのオリジナルコマンドを作って!」
「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたの?」
ぼくたちは一旦深呼吸をして落ち着く。イケちゃん先生に、六年生チームとの間に起こったことを説明した。
「――なるほどね。よーし、かわいい生徒のため、ひと肌脱いじゃうわよ」
「イケちゃん、ありがとう!」
ソラが先生に飛びついた。
ただし、と先生が指をビシッとぼくたちに向ける。
「どういうコマンドにするかは、自分たちで考えること」
「どうしてですか? 六年生と同じコマンドを作ってもらおうと思ったのに」
ぼくが聞くと、先生は首を横に振った。
「同じコマンドを使ったとしても、向こうの方が経験もテクニックもあるから、きっと勝てない。自分の特徴を活かしたものにしないとね」
「……たしかにイケちゃんの言う通りだと思う。六年生たちのマネじゃない、わたしたちだけのコマンドを作ろうよ」
「そうだな。とんでもないコマンドを考えて、アイツらを驚かせてやる」
リクが拳をギュッと握りしめた。
「カケルも分かった?」
ソラが真剣な眼差しでぼくを見る。
ぼくは力強くうなずき「りょーかい」と答えた。
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