Lovin' you

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Lovin' you

現在。 都心から電車で約3時間半。 女は、9月半ばだというのに肌寒い山の冷気を感じ身震いした。 「やっぱり何か羽織る物を持ってくれば良かった」 半袖のチュニックに七分のデニムではさすがに軽装だったため、すれ違う老夫婦に怪訝(けげん)に見られた。 (まだスニーカーなのが救いかな。) 女は駅でもらった観光案内用のパンフレットを開き、目的の滝まであと5キロもあるのかと少しため息をついた。 最近、食事もあまりとっていないので、なだらかな坂道がこたえた。 空は高く、薄い青空と強調するかのような真っ白な雲が眩しい。周りの木々がパッチワークのようにそれぞれに色づき目を楽しませた。しかし女はそんなものには目もくれずただ真っ直ぐに見えないものを見ている。顔には覇気がなく持っているペットボトルさえ重そうだった。坂の上から楽しげに笑いあう男女の声が聞こえ、女は仕方なくアスファルトに目を落とす。他人から見れば観光地で1人はぐれた旅行者のように見える女だったが、女から見れば行き交うすべての人はこの世の楽しさを謳歌(おうか)しているようだった。 苦しさに痛む胸をぎゅっと押さえ、女は通り過ぎた。 のろのろと坂道を行き、舗装されている道路からでこぼこと土と石が転がる道へ出て階段を登り、木々が生い茂る道を歩いて行くと遠くから水が細やかに流れ落ちる音が聞こえて来た。 (あぁ、やっと着く。) 女は安堵の溜め息をついて重い足を一歩一歩ゆっくりと踏み出す。 「もう少しでたどり着くはあなた、 やっと。」 彼が生前話してくれた、流れ落ちる滝の水が溜まる場所にあるという、人が足を踏み入れるのが困難な神社。でもその場にたどり着けば願いを叶えることが出来るという水神様が眠る場所。 あなたが私と初めて会った時に教えてくれた場所。 そう、 私が彼と出会ったのはちょうど5年前。
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