Lovin' you

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3週間前。 航空自衛隊を有する基地は一年に一度大きな祭り『航空祭』を行う。その祭りがある当日の町は活気に満ち溢れ、全国からそれを見るために多くの人たちが基地へ向かってやって来る。バズーカーのようなレンズをつけたカメラを持って歩いている人や航空機のおもちゃを持ってヨチヨチと歩く子どもとともに「楽しみだね」と口々に話しながら歩く親子連れ、同じTシャツを着た若い男女の一団など様々な年代の様々な人たちが同じ目的を持って基地に向かう様子はワクワクする気持ちをさらに加速させる。時おり頭上を航空機が行き交い、その度に見知らぬ他人同士が同じ方向を同じように空を見上げて歓声を上げる。 麻矢もまた、頭上を大きな音を残しながらスピードを上げて高く低く飛び交うさまを目で追っていた。 一緒になった頃、匠が叶わない夢があったと話してくれた。 幼い頃から好きだった航空機は、いつしか自分の夢になり、パイロットになって空を飛べたらと憧れた。でも歳を重ねていくと夢を叶えるためになぜか周りの大人を説得することに全てを費やさなければいけなくなり、いつしか無駄な努力に時間を割くことに嫌気がさし、普通の高校生になって普通の大学に行き親の求めた大人になった。 あんなに親元を離れない職を求められたのにいざ働いてみたら地元に収まらずに転勤ばかりしている。 夢は年を取るほど不思議と膨らんで、興味が尽きない。 だから毎年、航空祭に来てしまうんだ。 匠さんはいつもカレンダーと記念のTシャツとここでしか買えないグッズを楽しそうに選んで買ってた。各部隊を示すワッペンは色とりどりでコレクターのように集めている。 今年も開催されるのをとても楽しみにしてた。 だから、これは買って持って行かなきゃ。 匠さんへのプレゼントはこれで全部揃った。滝への道も進めるようになったのだから、私の残りの時間ももうあとわずか。 さぁ、あとは、みんなへの感謝の手紙を書き終えないと。 麻矢は航空祭の帰りに寄ったデパートで沢山のレターセットを買ってから空港へと向かった。
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