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とにかく沖田さんに会うためにも、ここに置いてもらわないと。 「絡まれていたのは、私がぶつかってしまったからです。何者かと言われても、私は私としか言えません。それより、土方さん、お願いです。私をここに置いて下さい。」 「まぁ、人には知られたくないこともあるから、無理には聞かねぇが、身元の分からねぇやつを置くわけにはいかねぇ。」 「他に行く当てなんてありません。どうか、この通り。」 ここで誠意を見せないと。 深々と頭を下げた葵に、流石の土方も慌て出す。 もしも、この女が公家の娘だとしたら、ここに置いておくのは不味い。 しかし、外に放り出しても、きっと誰かしらに絡まれるのがおちだ。 きっと俺が見捨てちまったら、生きていけないだろう。 後に鬼の副長と呼ばれる彼は、実に優しい心を持っていた。 いや、優しい男だったからこそ、近藤のため、新選組のため、鬼になることを決めたのか。 とにかく今はまだ、鬼の仮面さえつけていない。自分が断れば死んでしまうかもしれないと分かっていながら葵の頼みを断れるわけがなかった。 「しょうがねぇ。ただし、お前は今日から俺の妹として、振る舞ってもらう。お前、名は?」 「あおい」 「じゃあ、今日から土方葵だな。」 本当に不思議な巡り合わせである。 葵の名字を知らない土方によって、彼女の本名、土方葵の名が付けられることになるとは
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