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やっと見える距離になったところで、木の上に先客がいることに気付いた。
あれは男の子?
7歳から8歳くらいだろうか?小さな少年が一人、ぼんやりと町を眺めている。
「何してるの?」
あれ?おかしい。聞こえてないのだろうか。
「ねぇ、何してるの?」
いくら呼びかけても反応しない少年に、葵の声も徐々に大きくなる。
「ねぇって。」
「うるさいな。放っておいてよ。」
少年は一瞬、葵に視線を向けるが、興味がないかのように、すぐに視線を町に移した。
「何見てるの?」
葵はなおも話しかけるが、少年は無視を決め込んだのだろう。視線さえ向けてくれない。
「むぅ。生意気。そっちがその気なら、見てなさい。」
もともと、この時代の女のように淑やかにするのは、割りに合わない。元の時代でも、剣道で男とやりあっていた葵だ。
着ていた服をまくりあげ、腰の所で大きく結ぶ。履いていた草履を脱ぎ、木に登ろうと足をかける。
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