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町を眺めていた少年、宗次郎は、先ほどのうるさい声が聞こえなくなったことに気付いた。
ほら、やっぱり。皆、他人に興味なんてないんだ。姉さんも、僕を捨てた。
僕がいなくても、何ら変わることはない。
木に登って、町を眺める。それが、ここ最近の宗次郎の日課だった。
何のために僕は生きてるんだろう。
姉さんは強くなれといったけど、ただ僕を厄介払いしたかっただけだ。
そもそも、強くなんてなりたくもない。何故わざわざ、痛い思いをする必要があるんだ?
あの家に僕は必要ではなくなった。きっとただ、それだけなんだ。
そんな事を考えていると、下からガサガサという音が聞こえる。
は?あの人、正気?
ありえない。宗次郎は、開いた口がふさがらなかった。
彼が見たもの。それは、いい年した年上の女が、足が着物から出るのも気にせず、懸命に木にしがみついて登ってくる姿だった。
女子とは、男の後をはんぽ遅れて歩くような、淑やかな者をいうのではないか?
気が強い姉さんでも、人の前で足を出したりすることはなかった。
まして、女が木に登るなんて。
宗次郎が唖然としてると、女はすぐ真下までやって来た。
「ねぇ、何見てたの?」
先ほどと同じ質問をしてくる。
「関係ない。」
変な女だが、所詮は他人。
いざとなれば、見捨てるくせに。
話しかけるな。
そんな意味を込めて、素っ気なく返す。
「ここから町を見てたのね。きれいだもんね。ねぇ、何て名前なの?」
しつこい。女はなおも話しかけてくる。
「私は葵。君は?」
「関係ないだろう。」
もう関わるな。
そんな意味を込めて、女が伸ばしてきた手を大きく振り払った。
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