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それがいけなかった。
宗次郎の体は大きく揺れ、木の上でバランスを崩す。
落ちる。
この高さから落ちても、死にはしないが、怪我をするだろう。
次に来る衝撃を覚悟して、自然のうちに力が入る。
「危ない。」
葵は咄嗟に木から飛び降り、衝撃から守ろうと少年を抱え込む。
ふわり。柔らかな感覚に包まれ、宗次郎は目を開けた。
「大丈夫?怪我してない?」
「何で。」
信じられなかった。
姉さんさえ、僕を見捨てたのに。
何故、他人にそこまでするのか。自分が怪我するかもしれないのに。
僕を助けても、何の得にもならないのに。
「どうして」
小さく呟いた宗次郎の言葉は、葵の言葉にかき消された。
「無事でよかった。」
暖かい。何だこれは。
小さい頃、姉に抱き締められた時のような、暖かい気持ちに宗次郎は、戸惑いを覚える。
本当に不思議な女だ。
でも、悪いやつじゃない。
「別に、助けてもらわなくても、一人でどうにかできたのに。」
「やっぱり、生意気。いいじゃない。私が助けたかったのよ。」
この人なら、僕を見捨てずにいてくれるかな。
嫌みな言葉とは裏腹に、宗次郎の心はとても軽やかだった。
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