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「そうちゃん、最近、怪我多くない?」
宗次郎は、しょっちゅう、腕や足に怪我をしてくる。
あれから、度々会うようになった葵は、その多さが気になっていた。
男の子って、こんなものだろうか?
「別にこれくらい何ともないよ。」
何ともないと言い張っているが、怪我の悪化は命にも関わる。
嫌がる宗次郎を無理やり押さえつけ、怪我の手当てをする。
「そうちゃんが何ともないって言うなら、無理には聞かないけど、何かあったら言ってね。一人で抱え込んじゃだめだよ。」
何か隠していると分かっているが、話したくないことを、無理に聞き出す気にもなれない。
私はそうちゃんの味方だよ。
そんな思いを伝えたくて、猫のような癖のある髪を優しく撫でる。
「僕、可哀想なんかじゃないよね。」
気持ち良さそうに、目を細めていた宗次郎が、ぽつりと呟くように言った。
葵は宗次郎のことを何にも知らない。
知っているのは、何処かの道場に通っているということくらいだ。
「可哀想なわけないじゃない。だって、私と一緒にいられるのよ?こんなに恵まれてるの、そうちゃんくらいよ。」
何も知らないけれど、懸命に頑張る彼を可哀想なんて言いたくなかった。
一瞬、病で死んだ沖田と目の前の少年が重なり、おどけた様子で否定の言葉を言う。
「そうだよね。」
宗次郎は、大きく息を吸うと、葵に向かって宣言した。
「僕、誰よりも強くなるよ。馬鹿にしている奴らを見返せるくらいに。そしたら、しょうがないから、葵ちゃんのことも守ってあげるよ。」
「ありがとう。それじゃあ、そうちゃんのことは私が守るわね。」
それじゃあ意味がない と、怒る宗次郎を見て、葵は優しく微笑んだ。
この暖かな時を過ごした記憶は、今後何度も葵を励ますことになる。
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