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「葵ちゃん、あおいちゃん?どうして泣いてるんですか?」
「あれ、私、何で。」
唯の夢のはずなのに、最後に見た、青年の寂しげな顔が頭から離れない。いつの間にか、自分の片割れのように感じていた彼の死は、葵にとってあまりに衝撃的であった。
「何でもない。」
今は誰とも話したくない。どことなく青年に似ている友人の顔を見ると、また涙が溢れだしそうになる。
「ごめん、先に帰るね。」
「あっ、」
言うやいなや、駆け出した葵は、友人が残した言葉をついぞ聞くことはなかった。
「あの表情どこかで」
強がりな彼女は、今まで自分の前で泣いたことはなかった。彼女の涙は初めて見たはずなのに、泣くのを無理やり我慢するようなあの下手くそな表情を、自分は何度も見てきたような気がする。
「おかしいな。葵ちゃんといるのが、嬉しいのに辛いなんて。」
締め付けられるような胸の痛みを感じて、友人は小さく息を吐いた。
彼女といると、まれに胸が痛くなる。
でも、離れたくなくて、何か大切なことを忘れている気がして。
今度彼女と会ったら、泣いていた理由を聞いてみよう。
しばらく会えなくなることを、この時彼は知りもしなかった。
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