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駆け出した葵は、いつの間にか、見知らぬ神社にたどり着いていた。
剣にしかなれない。
役立たず。
「ちがう、違う、違う!」
あの時、青年が言った言葉を取り消したくて、思いのままに叫んでいた。
「なんで、なんでなの。どうして、誰も否定してあげなかったの。どうして、最後、そばにいてあげなかったの。どうして。」
いつの間にか恋をしていた。夢の中の青年、沖田総司に。
彼が夢に出てくると、心が踊った。病気になった時は、ひどく焦った。彼が労咳で亡くなることは、はじめから知っていたし、もうこの夢が見れなくなるのか、と寂しい気持ちになったりもした。
しかし、実際、彼の死を見ると、夢の中のことだと割り切ることが、どうしても出来なかった。
自分なら、自分が側にいたなら、彼を救うことが出来たのだろうか。
青年が最後に見せた、儚げな笑みが頭に浮かぶ。死ぬことよりも、恩師や仲間の身を案じ、本当は誰よりも仲間想いで、すぐにでも駆け出していきたいはずなのに。
誰よりも強かったはずの彼は、既に全てを悟っていた。自分がもう以前のように戦えないことも、役に立つどころか心配ばかりかけていることも。
彼をひとりで死なせたくなかった。
あんな全てを諦めた瞳で、寂しく笑うなんて悲しすぎた。
ふと、前を見ると、目の前に立派なお社がある。
「そういえば。」
ある言い伝えを思い出した。どうしても叶えたい願いがある時、神社にある、3つに並んだ石を探せばいい。その石に向かって願い事を唱えれば、石が割れない限り、神様が願いをかなえるためのチャンスをくれる。
「でも、石なんて。」
見つかるはずもない、そう続くはずの言葉は、声にならずに消えていった。どうして今まで気づかなかったのだろうか。大きな石が3つ、お社の横に並んでいる。
これは、運命としか考えられない。
「お願い!私を彼の元に行かせて。彼を助けて。」
葵は必死に願いを唱えた。
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