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気がつくと周りは、真っ白な空間で埋め尽くされていた。どこまでも、ただ白いだけ。上も下も分からない。
「どこ、ここ。」
言いようもない恐怖を感じる。
「誰か、誰かいませんか。」
自分が形のない存在になってしまったような錯覚さえ覚える。
すると、今度は何処からとなく光が差し込めてきた。
「土方葵」
光は、熱になり、音になり、彼女を包み込む。
「あなたの願いを叶えましょう。あなたが好きな時代、好きな場所に連れていきます。」
それなら、幕末に。沖田さんがいる時代に行きたい。
「あなたはこの時代の人間です。だから、向こうで死ぬことはない。どんな怪我や病気も治せる、治癒力を授けます。」
なんて都合のよい話なんだろう。治癒力、それがあれば、沖田さんの病も治せるかもしれない。
しかし、葵の考えを否定するように、神は低い声を出した。
「ただし、条件があります。歴史は人間の手によって、作られるものです。そこに神の力が加わってはなりません。」
「条件とは何ですか?」
「3つ。3つの約束を守りなさい。
1つ、未来に起こることを他の人に話してはいけない。
2つ、治癒力があることを他人に話したり、他人にその力を使ったりしてはいけない。
3つ、過去に生きるものと男女の仲になってはいけない。
この3つの約束を守れるなら、力を貸します。」
それじゃあ、沖田さんを治療することは出来ないのか。
「約束を破ってしまったら、どうなるのですか?」
「さきほどあなたが見た3つの石は、約束の石です。あなたを過去に送るための力をここに封印しています。3つの石が全て割れてしまった時、あなたに関わった全ての人から、あなたに関する記憶を消し、もとの時代に帰ってもらいます。」
「約束します。なので、私を幕末に、沖田さんの元に連れていってください。」
この時葵は容易に考えていた。
もし彼が病気になったとしても、治癒力を使えば彼を助けることができる。
それにより、彼が自分を忘れてしまってもかまわない。それに、3つの石のうち、1つが割れてしまっても、他の2つの約束を守る限り、自分はまだ幕末にいられる。
そんな簡単な問題ではなかったことを、ずっと後になって、嫌でも思い知ることになる。
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