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「それでは、行ってらっしゃい。何かあれば、またいらっしゃい。それから、社の中のものはささやかな贈り物です。」
気がつくと、元の神社に戻っていた。今まで、私は夢を見てたのだろうか。
しかし、すぐに周りの異変に気づく。
おかしい。車の音が聞こえない。
一見、元の神社と同じ場所に見えるが、現代では聞こえるはずの、車の走る音が全く聞こえない。
異変はそれだけではなかった。電信柱も、アスファルトの地面もない。
もしかして、本当に幕末に来れたの?
人を探しに外に出ようとして、ふと自分の格好を思い出した。
そうだ。ここがもし幕末なら、みんな着物を着ているはずだ。
こんな格好をして、外に出たら、斬り殺されてもおかしくない。
本当に治癒力が使えるかどうか、試す機会かもしれないが、痛い思いをするのは遠慮したい。
「そういえば、社の中に贈り物があるって。」
着物かもしれない。
その予感は当たっていた。しかし、驚かされるのは、その着物の美しさだ。
「これ絶対、高いやつ。」
着物について詳しくない私でも、ただの町娘が着るものでないことくらい分かる。
綺麗な着物に憧れがないわけではないけど、これじゃ、逆に浮いてしまう。
どしてよう。
迷った所で、他に選択肢はなかった。
ひとまず、これを着て、外に出てみよう。
着物の着方など分からなかったが、何とかそれらしく着ることができた。ついでに髪も適当に束ねる。
「これはお金?」
着物と共に置いてあった、お金らしきものを懐にしまい、外の世界に足を踏み出した。
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