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洒落た老夫婦
ナカムラ写真館の中村はとある老夫婦の遺影撮影のために大濠公園の近くにある老人介護施設を訪れた。
そして中村は疲れ顔だが気の良さそうな介護士さんに案内書された一室で今回のお客さまに対面する。
「ああ~どうもどうも~はじめまして、わたくしは高野才蔵と申します」
70代後半くらいだろうか、白髪をオールバックにした背広姿の老紳士が少し息苦しそうなハスキーな声で挨拶をする。
(喫煙者かな?)
と中村はその声で感じた。
「ほれ良子(よしこ)や、お前もご挨拶せいやあ」
隣には夫と同い年ぐらいであろうか、細身だが女性にしては背の高い、奇妙なほど白髪ひとつない豊かな黒髪をした顔立ちの整った老女が気難しそうな険しい表情をしている。
紺色のトレンチコートに首には赤いスカーフ。デザインは古いがとても洒落た洋装だ。
「中村様、すみませんこいつはアルツハイムが進んでましてちょっとのことで癇癪を起こしたりしよります、昔からこうではなかったのですがどうかどうか、撮影には支障のないよう致しますので勘弁してやって下さい」
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