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ずっと二人で
老紳士は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえそれはお構い無く、しかし高野さんご自身もご高齢なのに大変でしょう」
「いや~なんのなんの、こいつと一緒になって半世紀以上、今更なんということもないですわい」
「仲がおよろしいのですね。では撮影を初めさせて頂きます。どちらからお撮りになりますか?」
「二人一緒でお願いします」
「お二人で?」
「はい」
中村は驚いた。
遺影写真に二人撮すのは彼にとって前代未聞だった。現実には先ず存命な一人も葬式で飾られることになる。
中村が面食らった様子で言葉に詰まっているのを見て高野翁は頭を掻きながら曰く
「ああいいんですいいんです、もはや世間体や体裁なんぞ。どのみち葬儀はごくごく一部の家族葬。わしもこいつもあと何年か。どちかが先立ったとしても百年の孤独ということもありゃせんので、どっちが先に天国行ってもさみしゅうないように二人手を繋いだ姿を遺影の中に残しておきたいのです」
「承知致しました」
中村は胸のつかえが取れた気分で撮影を始めた。
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