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君の亀
良い写真が撮れそうだなと中村は思った。
「そのナンパは成功したのですか?」
「ん~ああ~、その時は失敗じゃと思った。書き上げた小説を持ってわしはまたその喫茶店に通いつめた。10月の最後の週末にこいつがおって、わしはいきなり駆け寄ってこいつのテーブルに原稿用紙を叩きつけた。そしてやらかしてしまったんじゃ」
「何をですか?」
「『君のかめに書きました!』と。まるで変質者でも見るように当惑しながらもなんとなく事態を察したこいつは黙ってわしの決死の小説に目を通してくれたんですわ。あの時は心臓の高鳴りは、もう自分が小説の主人公になったみたいでしたわい」
「それで良子様はなんと応えられたのですか?」
「一言、『続きは?』と。わしは『書くから連絡先を教えてくれ』と食い下がりましたわい。これがこいつとの馴れ初めです」
「そのままゴールインされたのですね?」
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