第二話

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第二話

 校門を抜けた()()の私は、階段を踏み外したように、体がガクンと沈んで、その場に転がった。  コンクリートの感触とは違う、冷たい知らない湿った石畳に体が(ちぢ)こまる。変な匂いもする。煙り?密室でお香を焚いているような息苦しさ。  そっと目を開ければ暗闇の中――。  何かが息を潜めている気配を感じるが、わからない――。  唸り声のような音が聞こえて、振り返るのと同時に。  何かに二の腕を掴まれて、声も出せずに気絶した。  水が勢いよく落下する音で目を覚ました私を、なんの躊躇(ためら)いもなく滝壺に投げ込んだ人型を、「魔術師の奴隷だろう」と魔王様が言った。魔術師が使っている奴隷は秘密保持の為、喉を潰された者が多いそうだ。  痛くて怖い話だ。  私は短時間に2回、気絶したことになる。  1回目は召喚されて直ぐに、奴隷に捕まって。  2回目は、滝壺から助けてくれた魔王様と目が合って。  実際に助けてくれたのは、給仕ゴブリンよりもっと大柄なゴブリン部隊なんだけど、滝壺に落ちて水流でグルグルしていたところを、カツオの一本釣りみたいに釣り上げてくれて。あれよあれよという間に、簀巻きのまま、魔王様に謁見させられていた。  はぁ……絶句。  この世のものとは思えないほどの整った出で立ち。腰まで真っ直ぐ伸びた銀髪は神々しく輝き、透明感のある白い肌。眉は凛々しく、切れ長の目の大きな赤紫色の虹彩からはすべて見透かされそうだ。高い鼻梁に、赤く艶やか唇。  豪奢なローブを(まと)っていてもわかる、しなやか体躯、そして長い脚。  位の高そうなゴブリンに耳打ちされて、こっちを向いた。 「また、そんな時期になったか」  いい声。冷たいけど、静かに響く声音は、私の耳には心地いい。はあぁ。  そして、全体から垂れ流されて止まらない、圧倒的高貴オーラに、私は目を見開いたまま、気絶という昇天をした。  気絶自体初めてのことなのに、身体的に大丈夫なのだろうか、私。
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