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宴の後
「この度は、ウェディング・
セレネをご利用頂き、まことに
有り難うございました。」
担当でございます
わたくし寿が、新婦様に深々と
一礼いたしますと、
『有り難うございました。』
全スタッフが、新婦様に
一子乱れぬ美しさで、
お礼を申し上げます。
その面々は、課長をはじめ
わたくしのように
セレモニーコスチュームを
身に付けてますスタッフも
おりますが、
紋付き袴の新郎、
両家家族、親族、
新婦学友
新郎側学友と会社同僚、
新郎側会社来賓と
神主に至るまでの装いを
した代理役、
総勢200人ほどの
プライベートアクトレスで
ございます。
「こちらこそ、今日はとても
お世話になりました、、
ありがとうございます。」
新婦様が背あげのベッドに
横たわりながら
微笑まれました。
丁度、新婦様のドクターが
診察を終えられたところに
ございます。
「それでは、お支払い誓約書を
交わさせて頂きますので。」
わたくしがそう申しますと、
スタッフ他、心得たもので
スマートに退出致します。
新婦様の控えとした小ホールは
洋館式場のサンルーム。
最後に戸口で、
新郎役を務めた
プライベートアクトレスが
振り返って新婦様に
頭を下げて行きます。
「この度は、ご希望されてました
新婦様以外は全員代役を用意。
お式と披露宴の映像は、主に
新婦様をメインで構成しまして
ピアノ伴奏などのお姿を撮り
ましたナカヤマ様の映像を、
差し込みいたします仕上げで」
わたくしは、
契約内容を簡単に
口頭で確認してまいります。
新婦様は、
ベッドヘッドに寄りかかり
わたくしの内容を
満足そうな面持ちで
聞かれてございます。
「以上、最後にオプションと
しまして、この度の新婦様
メイン映像を、ご葬儀の際に
流す事と、お写真は、
本日の、、角隠しのない
白無垢姿の肩上ポーズのものを
使う事を、ラストセレモニーに
引き継ぎいたします。では。」
そして、
新婦様のベッドサイドへ
誓約書にサインを頂きに
寄せさせて頂きます。
新婦様は、
誓約書に記された
7月7日の日付を愛おしそうに
指で弱く撫でられまして、
「寿さん。彼は、、気が付いた
と、、思いますか?今日を、」
わたくしではない
どこかを眩しそうに見つめて
問いわれます。
「さようで、ございますね。
わたくしの、憶測ではござい
ますが、本日が7月7日である
事。お二人が初めてデートを
された日付である事は、
招待状でわかってらしたと。」
少しお疲れが出てしまった
冷えた新婦様の手に
両手を添えまして、
暖めますと、
新婦様は、指に力を入れて
サインをされます。
「わたしのこと、気付いて、
ないなら、、よかった、、」
新婦様が安堵の息をされます。
わたくしも、
隣で、新婦様に頷きます。
新婦様のドクターが、
鎮静剤が効いてくる頃だと
お知らせ下さいます。
「よろしければ、ラストノートの
管理もございますので、
お顔を拝見に、わたくし寿が
まいります。よろしでしょうか」
もう、ベッドが動かされ
始めます中で
その様に、
わたくしが伝えさせて
もらいますと新婦様が
瞼で応と合図されました。
『では、後日また。』
療養担当者2人がサンルームから
ベッドを搬送するのを見送り
ます。
「ウェディング代行って言っても
いろいろあるんですね。勉強に
なりますけど、今回はショッパ
イお客様でしたね。寿さん。」
隣に、課長が並びます。
余韻も何もありませんね。
「この度のお客様は、余命という
体力的なカウトダウンもありま
したから、今日開催さえ出来な
い懸念もありました。それに、
ナカヤマ様が出席されない、
事も想定してですから。難しい
、、、わたくしも、思うことの
多い、お客様でしたね。」
書いて頂いたばかりの
誓約書を眺めて
わたくは、珍しく心情を
吐露してしまいました。
「お客様の思うよーに、ナカヤマ
様は、幸せになればいいね。
俺だったら、すぐに忘れてさ
新しい彼女作るっかなー。」
「課長、言い方が。」
ずっと気を付けるように
言ってますが、
聞く気がありませんよね!
このおぼちゃまが!!
「あ、ねー。寿さんてさ、いくつ
なの?ずっと気になってたんだ
よね。ほら、叔父きも、ここに
いてたでしょ?もうその時には
寿さんいてたって聞いてさ。
ヤバいな、いくつだよってさ。」
あー、コイツ。
あらあら、心声の柄が悪く
なってしまいましたわ。
「でさ、あれ。本当?寿さん
落としたらさ、グループの
セレモニー部門統括になれるっ
て話。俺さ、20ちょい上なら
全然許容範囲!てなわけで、
この後、ご飯していいです?」
本当に、
この会社の御曹司一族は
ロクものではございません。
課長に至っては
分家の三男坊ですからね。
そもそもこの仕事の
やりがいってものが
解っていない。
『ブーブーブー』
インカムに接続していた
転送電話が入りましたわ。
「はい、有り難うございます。
ウェディング・セレネの寿で
ございます。どのような代理
代役結婚をご希望でしょうか」
課長のご飯は
他に方にお譲りいたしまして。
わたくし コトブキにウレイと
書きまして、
『寿憂』が 皆様に寄り添い
ご希望のウェディングを代行
コンシェルジュ致します。
END
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