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「水汲んできたー!それどうするの?」
俺は、子どもたちから受け取った水を、少しずつだんごにまぜた。
このだんごは、石墨を細かく砕いたものに漆を加えて作った。
そして同じように木炭をすりつぶしたものも用意している。
どちらも、ほどよく水でのばしてやらなくてはならない。
そろそろいい具合だ。
俺は、懐から筆と木簡を取り出した。
紙は作られ始めているが貴重品で、俺たちのような役所の下働きには与えられない。
うすく平たくけずった木や竹が紙代わりになる。
筆だってあり合わせの枝や竹に、適当に動物の毛をはさみこんだものだ。
使い勝手のいい道具はこうやって自分でこしらえるしかないのだ。
石墨の方は書き味が硬い。
ざらっとしていて引っかかりがちだ。
木炭はいくらか滑らかだけれども、ムラができる。
両方を混ぜてみたり、漆や水の量を変えたりして、納得は行かないまでもなんとか使えそうなものができあがった。
一番小さい生意気そうな子どもが驚いたように指さした。
「おじちゃん!そんなごっつい顔なのに字が書けるの!?」
失礼な。
指をさすのもよしなさい。
「字は顔で書くもんじゃねぇ。どれ、手伝ってくれた礼だ、みやげをやろう。おまえたちの名はなんていうんだ?」
「「「チェジュン!ウェンイーだよ、ヤンルイってんだー」」」
「ひとりひとりいえよ、一緒に叫ばれちゃわけわかんねぇ。崔俊、文益、楊瑞。おまえたちの名はこう書くんだ、多分な」
俺は木簡の切れっぱしに、子どもたちの名を書きつけて渡した。
「ありがとうー!泥だんごみたいな顔のおじさんーーー!」
おとなしいと思っていた中くらいの子ども、文益が一番毒舌だった。
普段あまり字に触れることはないのだろう。
三人は嬉しそうに木簡をにぎって駆けていった。
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