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「譚封月!おまえはこれを清書して、東側の棚を修理しておけ。それが終わったらこの鍋の汚れを落としてぴかぴかにするんだぞ。その大事な書類は昼までに提出しなくてはならんのだ。昼までに、だぞ!」
「はい、わかりました曹雷さま」
なぜそんな量の大事な書き物を今日まで放っておけたのだ。
棚はもう作り直した方がよっぽど安上がりだ。
鍋はあんたの私物だろう、自分でやれ。
つっこみどころが多すぎる上司に文句をいうよりは、仕事に取りかかった方が早い。
「なにをどうやったらこうなるのかな。ここは棒がひとつ足りねぇな。こっちは桁がひとつ多いのか。こんなの請求したらもれなく怒られるだろうな、俺が」
曹雷さまはあわてんぼうでわすれんぼうなので、下書きの正確なところを探す方が難しい。
なんとかつじつまを合わせて書き終えたところで、曹雷さまがやってきた。
「譚封月!おまえはどうしていつもそんなに仕事が遅いのだ!言いつけたことの半分もできていないとは!こんなに役に立たない下働きは他にはおらん!」
「申し訳ありません」
「む。今なんか聞こえたような?」
「気のせいかと」
曹雷さまはぷんぷん怒りながら、書類を抱えて出て行った。
俺はのんびりと棚を板で補強し、釘を打ち直した。
多少斜めになったが、元からボロボロなのだ。
「そして鍋、かあ。なにを炊いたらこんなになるんだよ」
穴があいていないのが不思議なほどの鍋をなでて、俺は自分の手を見た。
真っ黒。
俺はハッとした。
指をこすり合わせてみる。
煤が指にまとわりついた。
石墨や木炭よりはるかに細かい。
俺は文字通り小躍りした。
曹雷さまのやることが初めて役に立った瞬間だった。
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