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俺は、平らな器を探した。
なかったので、机の上に鍋の煤をこそげ落とした。
いつも持ち歩いている漆と水を注ぎ、ていねいにまぜ合わせる。
先ほど棚の修理に使った木切れをうすくけずり、練った煤で縦横に線を引いた。
線は黒々として滑らかで、どこまでも伸びやかだった。
「これだ!!!」
「なにがこれだ!譚封月!おまえは今までなにをやっていた!ああ、鍋もまだ磨けていないではないか!棚も斜めになっているし机はどうしてそんなに真っ黒なんだ!」
真っ赤になった曹雷さまが目の前に立っている。
怒り心頭に発するとはこのことなのだろう。
「そんなの、どうでもいいですよ。曹雷さま、この鍋を焦がした時に使った薪はなんですか。大事なのはそこです」
「松だ!いや、大事なのはおまえが日暮れまでなにをやっていたか、だ!!」
「松ですね!それがわかればいいんです。書き物に必要な道具を作ってたんですよ。曹雷さまの鍋のおかげできっかけをつかみました」
「わしにはおまえがなにをいってるのかわからん!」
「俺にはわかりますから大丈夫です」
曹雷さまの怒鳴り声は聞こえるが、内容は全く頭に入ってこなかった。
このようすでは新しい仕事を探さなくてはならないだろうな、と俺は思った。
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