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幸せなひとときを堪能してビルを出ると、空にはぽっかりと黄金の満月が浮かんでいた。
秋終わりかけの十一月は肌寒くて、薄手のコートが欠かせない。
慣れ親しんだ複合タウン内を、永斗さんと手を繋いでレジデンスまでゆっくり歩く。
「久しぶりのデート、楽しかったです。こうして、ふたりになるのは、出産してからはじめてですね」
「これから、少しずつこういう機会も増やせたらいいね。たまには息抜きも必要だよ」
「ふふ、ありがとうございます」
繋いでいる手はとても温かい。
絡み合わせた指が、寒さから守るように甲を撫でる仕草にキュンとする。
そうなふうにして、いつものように他愛のない会話を重ねながら歩いていると、数分ほどして我が家が見えてきた。
結構ゆっくり過ごしてしまったため、斗真とご両親のほうが先に家に到着しているかもしれない。
そんな思いが過ぎったときだった。
「――あ、母さんからだ」
会話の途中で永斗さんが、スーツの胸ポケットから振動したスマホを取り出してハッとした。
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