番外編① 島田くんは困っている

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あの華やかな船上パーティーから約4カ月。 新たな年度を迎え、翌月に株主総会を控えた社内は猫の手もかりたいくらいに忙しい―― 「島田、今日の帰宅は何時になる予定?」 エレベーターを降りて、オフィスビルの前に横付けされている社用車へ向かうさなか、私のボス・漆鷲永斗が一度振り返る。 オーダーメイドのブラックスーツに、光沢感のある臙脂(えんじ)色のネクタイを締め、そして金色の髪を輝かせる姿は今日も周囲の視線を集めている。 「本日は夜にも18時半から航空会社との会食があるので帰宅は早くとも21時はすぎるでしょう。締結を控えてますから、もっと長引くかもしれません」 「――了解」 その会食では、機内食にうちの商品を取り入れるか否かの話し合いが行われる。 今日も遅くなりそうだな。 後部座席のドアを開いて彼を招き入れ、自分は反対側の扉から後部座席に乗り込む。本日は、企業専属の運転手がいる。 スムーズに車が目的地へ向かい走り出し、車内が静まり返ると「はぁ⋯⋯」と静かな吐息が隣から耳に入ってきた。
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