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もう、一ヶ月はこの過密スケジュールが続いている。
少し予定を詰め込み過ぎたかもしれない。
車窓を眺めたままの永斗さんは、きっと安定期に入ったばかりの真島さん――いや、くるみさんのことでも考えているんだろう。
だいたい彼の脳の八割はそれだ。いや九割八分⋯⋯だろうか。仕事にはことを欠かないが、私には丸見えだ。
「来美さんの具合はいかがですか?」
そう聞くと、碧い目が外の景色から移動して私を捉え、それからゆっくりと長い睫毛を伏せる。
「最近ようやくつわりが収まってきたと思ったのに、昨日はまた気分悪そうで⋯⋯できれば代わってあげたいよ」
悩ましげなため息。
彼のほうが、重症のようだな。
「お仕事の方は、まだお休みを?」
「休ませてるに決まってる。本人はだいぶ良くなったから行きたいと言ってるが、もしものことがあったら大変だ」
どちらの言うこともわからないでもないが⋯⋯
しかし、いまいち彼が言うと、症状の重さが伝わってこない。
何しろ⋯⋯過保護がすぎるからな。
「⋯⋯なに? 心配しすぎだとか言いたい?」
おっと、思考が読まれてたか。
「今回に関しては言いませんが、常に過保護だとは感じてます」
「⋯⋯島田は人を好きになったことがないから言えるんだよ」
「――――」
言いたい放題言って。
あなただってついこの前まで愛の“あ”すら知らなかったくせに
⋯⋯という文句は勤務中なので飲み込む。
言ったところであの鼻につく笑い方をされるのがオチだ。
何しろこの男は幸せの絶頂だからな。
そこで車はタイミング良くレストランに到着し、懇願先との昼食は、いつものように和やかにスタートした。
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