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さらに半年が経った。
アストリカ共和国はラキア、シュドルフ、イリーカと結び、ソヴォルク帝国との休戦協定を破棄した。
連合国は首都アダンの奪還を目指すが、ソヴォルクは徹底抗戦を決め、各地で激戦が繰り広げられた。
セシルも前線へと送られ、同胞と戦うことになってしまった。
こうなることは、帝国に行った時点で覚悟していた。
無論、同じ国の人間を殺すことには抵抗があった。けれど、戦闘は望むものでもあった。戦果を上げて認められ、少しでも皇帝に近づけるポジションにつかないといけないのだ。
自分の手はすでに汚れてしまっている。今さら同胞殺しを気にしてはいれない。
それよりも皇帝を殺すことが、彼らの命よりも勝っている。そう思うことにしていた。
あるとき、ヴァーゼルへの帰還命令を受けた。
セシルは兵部省へ出頭する。
一兵士が呼び出されるようなことは、通常ではあり得ない。何か特殊な事情があることは明らかだった。
正体がバレてしまったのか。だがそれなら何も言わず始末すればいいだけだ。
セシルは何かあれば、人質を取って立てこもる腹づもりで、兵部省へ出向いた。
「お前がテオドールか?」
「はっ!」
呼び出したのは近衛隊隊長ヴェルナーであった。
皇帝の寵愛を受ける若き将軍で、近衛隊のひときわ華美な制服が似合っていた。
ヴェルナーの腰には拳銃がある。いざとなれば、あれを奪うしかない。
だが、ただの優男ではないのは、立ち振る舞いから分かる。一歩踏み出した瞬間には、銃を抜かれているだろう。
「単刀直入に言う」
それが死の宣告ならば受け入れるしかないだろう。
セシルはつばをごくりと飲む。
「近衛隊に入らないか?」
「私がでありますか?」
思ってもみないことだった。
近衛隊は皇帝直属の部隊で、他の軍から独立し、独自の権限で動くことができる。
こうした抜擢も珍しくはないが、基本的にソヴォルク本国出身者が任じられ、属領出身の人間がなることはなかった。それは単純に信用の問題だ。
「不満か?」
「いえ……」
ヴェルナーはポーカーフェイスで何を考えているのか、まったく読み取れなかった。
セシルが戦場において戦果を上げていたが、それはあくまでも兵卒としてである。兵卒が何をしようと、皇帝の側仕えである近衛隊隊長の目にとまるはずがないのだ。
これは何か裏があるとしか思えなかった。
しかし、断ることはできない。
近衛隊にいれば皇帝に近づくことはできるし、ここで断れば余計な波紋を生むことになり、相手の策略にはまりかねなかった。
「謹んでお受けいたします」
上に従う。
軍隊という上下関係の厳しい組織では、問われるまでもなく肯定するしかない。
「期待している」
こうしてセシルは皇帝暗殺へ一歩近づいた。
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