帰還

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帰還

 近衛隊所属になって数ヶ月。  思わぬ好機が飛び込んできた。  皇帝がアダンの視察に行幸し、近衛隊もつきそうことになったのだ。  ヴァーゼルの宮殿内で手を出すことは不可能だが、長距離を移動するとなれば、暗殺の機会が生まれる。それがセシルの生まれ育ったアダンならば、地の利もある。  何より故郷でにっくき皇帝を殺せると考えると、心が躍った。  チャンスは一度しかない。確実に仕留められるタイミングを見極めるため、計画は慎重に進めていた。  あるとき、セシルは非番を使って、アダンの街に出ていた。  自分の知っている街とは、だいぶ様相が変わっている。  開戦後の戦いで街を破壊されていたが、その後、帝国の統治下になり、ある程度は修復が進んだらしかった。  けれど、共和国が他国と手を組んで再戦となったとき、市民蜂起が起こり、市街戦が激化。それによる荒廃がひどかった。  首都としてメインストリートは、他国を圧倒する豪華絢爛な町並みがあったが、今では見る影もない。帝国に接収され、そこを市民が襲撃したためだ。  誰がアダンを壊したのか問われれば、半分は市民と言えるかもしれなかった。  セシルはかつて自分が住んでいた地域に行ってみた。  住宅街なのでそこまで被害はなかったが、街の機能が失われたためか、壊れたものは直されず、捨てられたものはそのまま放置され、汚い町並みとなっていた。 「ヒドイもんだな……」  セシルの住んでいたアパートはかろうじて残っていた。  自分の家に戻ってみたが、誰かが住み着いていたのだろう。ゴミが散らかっていて、見ていられないほどだった。  部屋を片付けず出て行ったため、家具はそのまま残されている。けれど、思い出は汚されることになる。  ソファーは破け、皿は割れて、マリーが大好きだったぬいぐるみは引きちぎれていた。  自分のサッカーボールも空気が抜け、ぺちゃんこになっている。 「…………」  突然、背に堅いものが突きつけられる。  セシルはゆっくり両手を挙げた。
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