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ときどき、隣接するソヴォルク帝国の軍用航空機は、アストリカ共和国の領空を侵犯する。
だが、共和国と帝国の力は拮抗しているため、帝国も軽はずみに戦争を起こすつもりはなかった。偵察機を飛ばして、相手を挑発しているだけなのである。
共和国も分かっているので、その動向は追うが、打ち落としたりしない。
普段ならじゃれ合いに過ぎないから、こうして警報が鳴ることは異常だった。
空が光った。
続いて、多数の火線が空に伸びていく。
攻撃機による爆撃、そして攻撃機に向けた対空砲火だった。
挑発でも演習でもない。
これは明らかに戦争だった。
「首都攻撃……。ウソだろ……」
誰もが首都アダンが攻撃されるわけがない、と思っていた。だが、自分の目で戦火を見てしまった以上、認識を改め、事実を認めるしかなかった。
空に鳥の大群が現れる。
いや、鳥ではなかった。敵航空機が埋め尽くす勢いで、アダンの空を飛んでいるのだ。
「本気で戦争やる気か。帝国は勝算があるのか……?」
「セシル、大丈夫だよな……。」
「ああ。首都の防衛体制は完璧だ。だが……」
もはやサッカーの試合どころではなかった。
帝国による爆撃音、共和国による砲撃音が鳴り続け、その距離も近くなっている。
帝国軍に負けるはずがないとは思っているが、いつここも被害を受けるのか心配だった。
「お兄ちゃん!」
サッカーコートに中学生ぐらいの少女が入ってきた。
「マリー! 父さんと母さんは?」
セシルの妹だった。
今日の試合を見るため、家族で競技場にやってきていた。戦争という非常事態なので、家族の状況を教えるため、コートまで降りてきたのだ。
「まだ席にいる。ここが避難所になるからって」
「そうか。それがいいな」
競技場はパニック状態になっていた。
観客席で逃げ惑う者、マリーのように家族に会おうとコートに降りてきている者、呆然と空を見上げている者……。
「ロワゼさんのお母さんは、向こうに座ってたよ」
「ありがとう、マリーちゃん」
セシルとロワゼの家は隣同士で、ロワゼが母子家庭ということもあり、昔から家族同然の付き合いをしていた。
「マリーは母さんのところに戻ってろ」
「お兄ちゃんは?」
「避難の手伝いをしてくる」
セシルはマリーの体をひょいと持ち上げて、観客席に上げてやった。
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