11人が本棚に入れています
本棚に追加
「まさかアストリカは負けないよな?」
競技場の混乱を見て、ロワゼが不安そうに言う。
対してセシルは落ちついていた。
「どうだろうな」
「え?」
「誰も遊びで戦争なんてやらない。あれだけの攻撃機を出しているんだ。勝つ見込みがあってやっている」
「そんな……」
そのとき上空を複数の航空機が通過した。
アストリカ共和国の戦闘機だった。帝国の攻撃機を落とすために、スクランブル出撃したのだ。
「対応が追いついていない。油断しすぎだ」
「でも、帝国はたびたび領空侵犯してたんだから、いつかは攻めてくるって警戒はしてたろう?」
「それこそ作戦だったんだよ。何度も繰り返すことによって、挑発だけで本気で攻める気はないと思い込ませていた。おかげで、軍は帝国を腰抜けだと思ってたし、次もただの挑発だろうと警戒が緩んでいた。考えてみれば、飛行機ならあっという間の距離だし、道だって帝国とつながってるんだ。一日で落とすのも不可能じゃない」
セシルは、帝国軍の奇襲に共和国軍は敗れると予想していた。
「首都が陥落するのか……?」
「ああ、長くは持たないだろう」
「そんなバカな……。なら逃げなきゃ。帝国軍が来る前に!」
ロワゼは母を迎えに観客席に向かおうとしたが、人にぶつかってしまう。
人々は立ち止まって、空を見ていた。
そこにあるのは、黒煙を上げた帝国の攻撃機だった。
動力を失ったのか、ふらふらと飛びながら高度を下げつつ、競技場のほうに近づいていた。
「こっちに来るぞおおおーっ!!」
人々は出口に向かって走り出していた。
つまずき、押し倒し、踏み潰され、もみくちゃになっている。
「母さん!!」
ロワゼも人波をかき分けて観客席に行こうとする。
「おい、ロワゼ!」
セシルは取り乱したロワゼを止めようとする。
攻撃機がさらに近づいてきて、その姿が鮮明に見える。
腹には巨大な爆弾がくくりつけられたままだった。
このまま競技場に突っ込んできたら皆死ぬ。
セシルはそう確信した。
攻撃機の高度はみるみる下がっていく。
地上への激突は必至だった。
「伏せろ!!」
セシルはロワゼを強引に押し倒した。
次の瞬間、攻撃機が競技場の外壁に衝突した。
大爆発を起こし、競技場は爆風と爆炎に包まれた。
最初のコメントを投稿しよう!