開戦

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「まさかアストリカは負けないよな?」  競技場の混乱を見て、ロワゼが不安そうに言う。  対してセシルは落ちついていた。 「どうだろうな」 「え?」 「誰も遊びで戦争なんてやらない。あれだけの攻撃機を出しているんだ。勝つ見込みがあってやっている」 「そんな……」  そのとき上空を複数の航空機が通過した。  アストリカ共和国の戦闘機だった。帝国の攻撃機を落とすために、スクランブル出撃したのだ。 「対応が追いついていない。油断しすぎだ」 「でも、帝国はたびたび領空侵犯してたんだから、いつかは攻めてくるって警戒はしてたろう?」 「それこそ作戦だったんだよ。何度も繰り返すことによって、挑発だけで本気で攻める気はないと思い込ませていた。おかげで、軍は帝国を腰抜けだと思ってたし、次もただの挑発だろうと警戒が緩んでいた。考えてみれば、飛行機ならあっという間の距離だし、道だって帝国とつながってるんだ。一日で落とすのも不可能じゃない」  セシルは、帝国軍の奇襲に共和国軍は敗れると予想していた。 「首都が陥落するのか……?」 「ああ、長くは持たないだろう」 「そんなバカな……。なら逃げなきゃ。帝国軍が来る前に!」  ロワゼは母を迎えに観客席に向かおうとしたが、人にぶつかってしまう。  人々は立ち止まって、空を見ていた。  そこにあるのは、黒煙を上げた帝国の攻撃機だった。  動力を失ったのか、ふらふらと飛びながら高度を下げつつ、競技場のほうに近づいていた。 「こっちに来るぞおおおーっ!!」  人々は出口に向かって走り出していた。  つまずき、押し倒し、踏み潰され、もみくちゃになっている。 「母さん!!」  ロワゼも人波をかき分けて観客席に行こうとする。 「おい、ロワゼ!」  セシルは取り乱したロワゼを止めようとする。  攻撃機がさらに近づいてきて、その姿が鮮明に見える。  腹には巨大な爆弾がくくりつけられたままだった。  このまま競技場に突っ込んできたら皆死ぬ。  セシルはそう確信した。  攻撃機の高度はみるみる下がっていく。  地上への激突は必至だった。 「伏せろ!!」  セシルはロワゼを強引に押し倒した。  次の瞬間、攻撃機が競技場の外壁に衝突した。  大爆発を起こし、競技場は爆風と爆炎に包まれた。
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