開戦

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 街の中心部の状況は、二人の想像を絶するものだった。 「街が……」  あちこちで火の手が上がり、建物は破壊され瓦礫の山となっていた。  共和国の誇る近代的で美しい街が、かつての戦時写真で見たような廃墟となっていて、二人は言葉を失ってしまう。  形を残している政庁の建物には、帝国の旗が掲げられていた。 「軍隊は何をしてたんだ……」 「空から一気に攻めたんだろう。攻撃機で爆撃して、対空砲や軍事拠点を潰したんだ。それから空挺部隊を投入し、要所を制圧していったんだ。命令系統をズタズタに引き裂かれ、部隊は何もできないまま、陸路から侵入した戦車部隊に挽きつぶされたんだよ……」  共和国と帝国の経済力、軍事力はほぼ互角と言っていい。  総力戦となれば血みどろの戦いとなり、双方国家を維持できないほどの痛手を被ることは想像できた。だから、表だって交戦することはないと誰もが思っていた。  しかし違った。  総力戦をしかけ、国民を皆殺しにしなくても、政府さえ潰せば事足りるのである。 「でも首都だけ落としたって、補給できないし、取り囲まれて殲滅されるんじゃ?」 「そうだと思ってたが……。俺たち市民が人質になるようだ。軍が建て直して首都奪還しようと思っても、百万の市民を盾にされたら手を出せない」 「そんな……」  防衛体制が整わず、まともな迎撃が不可能と分かった時点で、政府の高官たちはすでに逃げ出していた。  しばらくして、どこかの都市で臨時政府を起こし、反撃の機会をうかがうことになるだろう。 「帝国には俺が行く」 「僕も一緒にいくよ」 「お前はダメだ。おばさんがいるだろ。誰が守ってやれるんだよ」 「…………」  ロワゼは答えられなくなってしまう。  身寄りがなく、帝国に制圧された首都でどう生きていけば分からない状況で、母を放ってはおけなかった。  一方、セシルにはもはや守るものがなかった。 「僕にできることは?」 「何もしなくていい。俺が皇帝を殺してくる」 「…………。そうだよな……。僕にできなくても、セシルなら何でもできる」 「そういうことだ」  セシルはふっと笑う。  自分は誇張しすぎるし、ロワゼは卑下しすぎる。  悪いクセだが、ロワゼを留め置け、そして自分の退路を塞ぐことができて良しとした。  開戦から三日。ようやくセシルは家族を失ったことを実感できていた。  家に帰っても迎えてくれる者がいない。帰ってくる者もいない。  この数日で多くの人が亡くなった。自分のように大切な人を失った人は大勢いるだろう。突然の宣戦布告によるだまし討ち、市民の被害などお構いなしの無差別爆撃、首都制圧後の残虐非道な行為。帝国の悪行は数え出したら枚挙に暇がない。  孤独の中で、セシルは皇帝への恨みを募らせていったのだ。   「できるできないではない。俺がやらなければいけないんだ」
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