潜入

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潜入

 セシルは、ソヴォルク帝国の首都ヴァーゼルに入った。  ヴァーゼルは属領の民も集まる国際都市。帝国人はブロンドの髪を持ち、共和国人は黒髪が多かったが、多くの人種が集まっていることから、見た目で怪しまれることはなかった。 「隣いいか?」 「ああ」  セシルはバーで、同じ年代の若者に声をかけて、カウンターに座る。  そして、ビールを注文した。 「どこから来たんだ?」  若者が言う。 「ザイツからだ」 「へえ、俺はルンデンからだ」  二つとも帝国の属領の名だった。かつての戦いで併合され、帝国領となっている。  もちろんセシルの言うことはウソである。 「ってことは、兵士になり来たのか?」  セシルは頷く。 「そうなるよな。他に働き口もねえし、兵士が一番手っ取り早く金になるもんな」 「こっちも同じだ。不景気で仕事がない」  セシルは相手の会話に合わせる。 「でも、タイミング悪いよなあ。急に戦争だってよ。10年してなかったんだから、もう10年しなけりゃよかったのに。そうりゃ、何もせず金もらえたのになあ」 「やめるのか?」 「いやいや、そういうわけにもいかない。こっちは何せお金がないんだ。戦争は優勢だって聞いたぜ? 共和国の臨時政府も、休戦を申し入れてるらしいから、泥沼の戦いにはならんだろうよ。他の国がどう動くかにもよるがな」  体勢が整うまでは、共和国は反撃ができない。この勢いにのって他の都市を取られてはたまらないから、共和国は休戦要求するしかないのだ。  帝国も完全な兵站が構築できていなければ、受け入れるかもしれない。首都しか支配していないので、反撃に遭えばすぐに孤立してしまうのだ。  共和国は必ず周辺諸国を巻き込み、再戦を挑む。諸国はこの戦争で、帝国領を削りたいから、きっと共和国に協力するだろう。 「じゃあ、今日は俺のおごりにしてやろう」 「いいのか!?」 「その代わり、話を聞かせてくれ。今日ヴァーゼルに入ったばかりなんだ」 「乗った! 俺の名はテオドール。お前は?」 「セシルだ」  二人は意気投合し、深夜まで酒を飲み続けた。 「おいおい、飲み過ぎだぞ」  バーを追い出され、テオドールと名乗った男は、道ばたに座り込んでしまう。  セシルが起こそうとしても、ああとか、ううとか言うだけで会話にならなかった。  夜は更け、街には誰も歩いていなかった。  セシルはテオドールを背負って移動し、川沿いまでやってきた。 「悪く思うなよ」  セシルはテオドールの口にハンカチを当てる。  そして、ナイフを胸に突き入れた。  テオドールはうめき、抵抗するが、セシルはがっちりと押さえつける。  しばらくして、テオドールは動かなくなった。  セシルは服とカバンをあさり、あるものを奪い取る。  そして、無用なものを静かに川へと突き落とした。
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