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溶けたアイスが手首を伝う。慌てるでもなく、指摘するでもなく、気付いているけど何も言わない。返事をしない僕のためにマニュアルのような台詞を同じ口調で繰り返す。目の前に座っている優子はたぶん、まだ彼女だ。
「別れよう、会えないなら意味がないよ」
ゴールデンウィーク二日目、駅から十五分歩いてたどり着いた喫茶店の店内はきんきんに冷えていた。
「別れないなら結婚しようって言ったのに、それもできないんでしょう」
優子はワッフルコーンが好きなはず。なのにアイスはカップに浮かび始めている。
「もう三年目だよ。千弘のことは信じてるけど、私がもう耐えられない」
付き合って来月で五年、遠距離になって三年目。優子はアイスを半分も食べなかった。
「いいよ、別れよう」
形を保てないデザートはいくら甘くても無意味らしい。ベタついて、離れない。だから今日はキャリーケースがなかったのか。残されたカラフルな液体とカップに向き合った僕は、追いかけることもできなかった。
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