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エアコンが吐き出す風が涼しい。
緊張して皮膚から滲み出ていた不快な汗がすぐに乾いた。
ダイニングテーブルの上に置いた自分の仮面と顔を合わせる。真っ白で単純な表情のくせに花柄が一つ、右頬に付いている仮面。
改めて思うけど、こんな顔で今まで旦那と接していた私、我ながらセンス悪い。
テーブルの対面には今まで私が見てきた旦那の整った顔(仮面)が置いてある。向かい合って座っている旦那もちゃんと仮面を外しているようだ。
今から私達はお互いに顔を上げて、結婚四年目にして初めてお互いの顔を知る。
なんだか不思議な気持ち。このダイニングテーブルも、仮面を付けていない私達を見て戸惑っていることだろう。
「本当に見るんだよね。」
俯いたままの私の頭の上から旦那の声が聞こえた。
旦那が既に顔を上げているのか、まだ俯いているのかはわからない。
「うん。これからの為だから。」
「わかった。」
彼は私の言う事に一切反対せず、賛成してくれる。
そんな優しい彼が私は好きだ。
五年前、仮面舞踏会で出会い、酔っていた私の話をちゃんと頷いて聞いてくれたあの時からずっと。
今もあの時の感情が間違っていたとは思わない。
仮面を付けたまま真剣に付き合い、結婚し、生活する中で彼に対する不満など一度も感じた事がなく、私は彼の内面を心から愛している。
仮面結婚が世間一般的に認められているこの時代に生まれて良かったと思っている。
もし、この時代に生まれていなければ、彼に出会えていなかったかも知れないし、彼の内面の良さに気づけていなかったかも知れない。
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