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「じ、実はな……」
なんだか、鼻息まで荒い。
「じ、実は、お前に、キュ、キュ、キューピッドの役を……」
「キューピッドォ?」
「わっ、バカヤロウ。でっかい声を出すな」
キングは、ヌルヌルした体でオレの口をふさごうとする。
「ご、ご、ごめんなさいっ」
フンフンとキングは鼻息をはいて、それから、こっそりささやいた。
「気になるコがいるのだ」
「ええっ」
また大きな声になってしまって、キングににらまれる。
「だから、気になるコがいるのだ」
キングのささやきに合わせて、今度はオレの声も小さくなった。
「……それって、相手もミミズ?」
「……ちがう」
ピンクの体をもっとピンクに染めながら、キングが顔をそむけた。
「じゃあ、だれ?」
「……わからん」
オレが顔をのぞきこむと、キングは体ごと向きを変える。
「わからんのだ。だから、お前にたのんでいるんじゃないか」
さっきまでの威厳はどこかに消えて、なんていうか、ちょっとショボくれたチンピラみたいになっていた。
「オレサマのカノジョになってくれるよう、たのんでくれ」
「え~っ」
告白くらい自分でしろよ。
なんで、オレが……と言いかけて、言葉を飲み込む。
キングがサングラスの向こうからオレを見ている。
いや、オレのコカンを見ている。
とたんに、脅迫状を思い出す。ああ、そうだった。断れば、オレのチンチンはえらいことになってしまうんだった。
「見た目はどんな感じなの」
さらっと聞いたのに、キングはうっとりと語りだした。
「ぷっくりと丸みをおびた体はほんのりとクリーム色で、ふんわりとやさしい産毛が生えていて、その先につつみこみたいほど小さな手足がのびて、オレンジ色のうるわしいお顔があって……。ああ、思い出すだけで胸がドキドキする」
クリーム色の体。産毛。小さな手足。オレンジの顔。そんなのがウルワシイのか? どっちかというと……。
「キモチワリ」
「なに? なんか言ったか?」
キングがヌルヌルの顔をよせてくる。
「なっ、なんでもないです」
「ふん。まあいい。とりあえずオレサマを紹介してくれ。いいやつだって売り込むんだぞ」
「そんなこと言ったって、どこにいるかわからないじゃないか」
「大丈夫。家はだいたいわかっておる」
キングは言うが早いか、ぐいぐいと土にもぐりはじる。
キングが進んだ後には、大きなトンネルができていく。
不思議なことに土の中はほんのりと明るく、ひんやりと涼しかった。
オレは迷子にならないように、ひたすらキングをおいかけた。
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