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オレがキングの方を振り返ると、キングは、シャンと背筋を伸ばして、かっこよくきめていた。
幼虫も、体を伸ばしてキングを見る。
オレは、キングを手招きした。
いそいそとキングが近づいてくる。
体中真っ赤になって、照れているのがわかる。
「は、初めまして」
へんてこりんな声。緊張してるんだ。
「オ、オレサマ、ミミズキングと言います」
「こんにちは」
幼虫がにっこり笑う。
「おじさん」
「!」
キングの動きがぴたっと止まる。
こういうの「固まる」って言うよね。まさにそんな感じ。
「おじさん、コイビトくれるの? 食べられるの? ワタシおなかすいてるんだあ」
キングは、まだ動かない。
クネクネの体をカチンコチンにして、そのまま固まっている。仕方ない。
「幼虫さん、サヨナラ。また今度」
オレは「コイビト食べたい」と騒ぐ幼虫をそのままに、キングをズルズルひっぱっていく。
ズルズルズルズル。
ずいぶん進んだころ、不規則な音が聞こえてくることに気がついた。
よく見ると、なんとキングが泣いていた。
「おじさんだなんて。あんまりだ」
「仕方ないよ、相手が子どもすぎたんだよ」
「ずっと好きだったのに」
「残念だったね」
他に言うことがなくて、オレは泣くキングの横でじっと立っていた。
オレは、帰れるんだろうか?
もしかして、キューピッド役失敗で、例の刑は執行されるんだろうか?
「おい」
しばらくして、キングが顔をあげた。サングラスがキラリと光る。
「次行くぞ」
「へ?」
「もともと不釣り合いだったのだ。このオレサマと子どもなんてな」
「はあ」
「実はもうひとり、気になるコがいるのだ。噂で聞いたんだけどな。家の一番奥で大切にされている深窓の令嬢のような方がいるらしい。その方こそオレサマにふさわしいのだ」
え? ええっ! 何その変わり身の早さはっ。
「さあ、コウタ。行くぞ」
「オレも?」
「当り前だろう。オレサマの恋がうまくいくまで、お前は帰れないと思えよ」
不敵な笑みを浮かべ、キングはクルリと向きを変えた。
ヌルリとした体が動き始める。
「そんなあっ」
というオレの叫びは、むなしく土の中に吸い込まれていった。
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