ある夜

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 月の光を浴びたオタビ山は、いつもと雰囲気が違って見えた。まるで別の惑星に来たみたいだ。 「志田さん、そっちは行き止まりだよ」  ぼくは遊歩道のわき道に入った志田さんに声をかけた。探検ごっこで何度か行ったけど、背の高いフェンスがあるんだ。 「まあ、ついておいで」  志田さんはそのまま歩き続ける。フェンスまでたどり着くと、いつもは鍵のかかっている扉が開いていた。志田さんとフリーダが中に入る。  いいのかな?  母さんを見上げるとうなずいたので、ぼくとリナも中に入った。その先には、コンクリート製のかまぼこみたいな建物がある。入り口のパネルを志田さんが操作すると、ピーッと音がして鉄の扉が開いた。 「そら、おはいり」  リナの手をひいたぼくは、こわごわ中を見回した。建物の中には何もなく、床は少し先からなだらかな下り坂になっている。坂は地面を潜って、ずっと先まで続いていた。  これはトンネルなんだ。  ぼくたちは、点々と照らされる道を下った。突き当りの扉の前で、志田さんがもう一度パネルを操作する。扉を開けると、中には先客がいた。 「トモくん、リナちゃん! よく来たねえ」  町内会のお年寄り夫婦、松岡(まつおか)のお婆さんが声をあげる。 「フリーダもか。そりゃそうか」  吉野(よしの)のおじさんが言った。中学生のユキ姉ちゃんはおばさんと一緒に座っている。ちょっと泣いていたみたいだ。  ぼくは部屋の中を見回した。ソファやテーブルが置かれて、壁にはいくつかドアがある。病院の待合室みたい。 「悪いけど、部屋割りはこっちで決めさせてもらいました」  町内会長さんが、母さんと志田さんにそれぞれカードを渡した。 「子ども連れと年長者は奥の部屋。で……」 「独りもんのおっさんは出入口のすぐ横か」  志田さんに茶化されて、会長さんもちょっと笑った。 「番犬には見張りをしてもらわないと」  そのとき、吉野のおばさんが叫んだ。 「見て! 外に誰かいる」  みんなの目が、扉の横に集まる。小さなモニタに、二つの人影が映っていた。かまぼこの入り口に立って、何かを言っているようだ。  志田さんがモニタ下のボタンを押すと、声が流れ出した。 『入れてくれ!』 『開けてくれ、頼む!』  志田さんはボタンを切ると、振り返った。 「……どうする?」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加