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月の光を浴びたオタビ山は、いつもと雰囲気が違って見えた。まるで別の惑星に来たみたいだ。
「志田さん、そっちは行き止まりだよ」
ぼくは遊歩道のわき道に入った志田さんに声をかけた。探検ごっこで何度か行ったけど、背の高いフェンスがあるんだ。
「まあ、ついておいで」
志田さんはそのまま歩き続ける。フェンスまでたどり着くと、いつもは鍵のかかっている扉が開いていた。志田さんとフリーダが中に入る。
いいのかな?
母さんを見上げるとうなずいたので、ぼくとリナも中に入った。その先には、コンクリート製のかまぼこみたいな建物がある。入り口のパネルを志田さんが操作すると、ピーッと音がして鉄の扉が開いた。
「そら、おはいり」
リナの手をひいたぼくは、こわごわ中を見回した。建物の中には何もなく、床は少し先からなだらかな下り坂になっている。坂は地面を潜って、ずっと先まで続いていた。
これはトンネルなんだ。
ぼくたちは、点々と照らされる道を下った。突き当りの扉の前で、志田さんがもう一度パネルを操作する。扉を開けると、中には先客がいた。
「トモくん、リナちゃん! よく来たねえ」
町内会のお年寄り夫婦、松岡のお婆さんが声をあげる。
「フリーダもか。そりゃそうか」
吉野のおじさんが言った。中学生のユキ姉ちゃんはおばさんと一緒に座っている。ちょっと泣いていたみたいだ。
ぼくは部屋の中を見回した。ソファやテーブルが置かれて、壁にはいくつかドアがある。病院の待合室みたい。
「悪いけど、部屋割りはこっちで決めさせてもらいました」
町内会長さんが、母さんと志田さんにそれぞれカードを渡した。
「子ども連れと年長者は奥の部屋。で……」
「独りもんのおっさんは出入口のすぐ横か」
志田さんに茶化されて、会長さんもちょっと笑った。
「番犬には見張りをしてもらわないと」
そのとき、吉野のおばさんが叫んだ。
「見て! 外に誰かいる」
みんなの目が、扉の横に集まる。小さなモニタに、二つの人影が映っていた。かまぼこの入り口に立って、何かを言っているようだ。
志田さんがモニタ下のボタンを押すと、声が流れ出した。
『入れてくれ!』
『開けてくれ、頼む!』
志田さんはボタンを切ると、振り返った。
「……どうする?」
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