ある夜

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「怖いわ、よその人なんて……」  松岡のお婆さんが震え声で言ったのをきっかけに、大人たちはいっせいに話し始めた。 「放っておこう、諦めるまで」 「部屋にはまだ空きがあるのに?」 「うちには娘がいるんですよ」 「暴れるかもしれない」 「でも、彼らを見殺しに……」 「まだ来ていない人たちがいる」みんなの声を遮るように、会長さんが言った。 「上の二人を入れずに、残りの人を通すのは難しいです。今は敵対したあげく踏み込まれるより、友好的に受け入れた方がいいと思う」 「父さんもこれから来るよ!」  ぼくが思わず声を上げると、みんな黙り込んだ。後ろに立っていた母さんが、ぼくの肩をぎゅっと握る。 「……そうだな」  志田さんが真面目な顔をしてうなずいた。  志田さんと会長さんに連れてこられたのは、思ったよりも若いお兄さんたちだった。二人ともバイク用のジャケットをはおり、大きな荷物を背負っている。 「で、君たちは何なんだ?」  吉野さんが問い詰めると、背の高い方が怖い顔になった。もう一人が慌てて割り込む。 「俺たち、前からこの辺をツーリングしてたんです。そのとき、噂を聞いて。アラートが出たとき、ここしか思いつかなかった。……受け入れてくれて、本当にありがとうございます」 「で、あんたら衛星通信とかつなげたりする? 外の様子がわかるようにしたいんだけど」  その場をとりなすように、志田さんが中央の壁際に置かれた大型の機材を指さす。お兄さんたちは顔を見合わせた。 「俺、文系なんで……こいつも運送業だし」  そう言いながら、三人で機材をのぞき込む。そのとき、志田さんの横に伏せていたフリーダが立ち上がり、ひと声吠えた。同時に部屋の扉が開く。 「父さん!」  ぼくは人が増えて窮屈になった部屋の中をかきわけ、入って来た父さんに抱きついた。どうしてか、もう二度と会えないかもしれないような気になっていたんだ。 「トモ、無事に着いたんだな」  父さんは照れたようにぼくの髪をくしゃしゃにした。  部屋の奥は小さな廊下につながっていて、ドアが並んでいる。母さんは渡されたカードを使って手前側のドアを開けた。  中には2つのベッドと、クローゼットと、バスルームがあった。ホテルみたいだけど、テレビは無い。地下だから窓も無い。ぼくは壁の時計を見た。3時ちょっと前。  眠ってしまったリナを、母さんがベッドに横たえる。荷物を下ろした父さんが言った。 「先に休んでてくれ。俺はちょっと話してくるよ。今の状況を知りたい」 「わかった。ドアは少し開けておける?」  母さんに頼まれて、父さんはドアストッパーを使って数センチの隙間が開くようにすると出て行った。
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