ある夜

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 なにか、怖いものから逃げていた気がする。夜空を飛び回る大きな鳥、叫ぶ人たち、火…… 「トモ、トモ」  目を覚ますと、母さんがぼくをのぞき込んでいた。 「悪い夢を?」 「……うん」  ぼくはとたんにほっとして、泣きたいような気持ちになった。母さんに抱きつきたい。でも母さんはすぐに立ち上がってしまう。 「これに着替えて。着替えたらリビングに来て」  枕元に畳まれた服を置くと、ぼくの頭をなでて出て行った。  もう朝なのかな? 部屋の中は真っ暗だ。  目覚まし時計を見ると、まだ夜中の2時だった。こんな時間に起きたのは初めてだ。  隣の部屋から、リナのぐずる声が聞こえる。母さんはリナも起こしているらしい。  ぼくはパジャマを脱ぎながらぼんやり考えた。去年スキーに行ったときは、すごく早起きして出かけたっけ。また、どこかに行くのかな。今は夏だけど。  服に着替えると、ぼくは言われた通り部屋を出た。リビングの明かりはついてなくて、キャンプ用のカンテラが2個置いてある。何だか特別な雰囲気。窓際に立っていた父さんが振り返った。 「起きたか」 「うん。ねえ、ぼくたち出かけるの?」 「そうだよ」  部屋の真ん中に、荷物の山ができていた。スーツケースが二つと、大きなリュックが二つ。その隣に、すこし小さなオレンジ色のリュック。 「これ、ぼくの?」 「ああ。他に持って行きたいものがあれば取ってきなさい」 「じゃあゲームとサッカーボール」 「ゲームだけ、ボールは無しだ」父さんは言った。「かさばるからね」  父さんは窓から離れ、二つのスーツケースを玄関に運ぶ。ぼくはテレビの横に置いてあったゲーム機を充電器ごと取り上げた。  リュックのふたを開けようとしていると、リナを抱いた母さんがやって来た。 「トモ、何してるの?」 「ゲームを入れようと思って。父さんがいいって言ったよ」 「こっちに入れなさい」  母さんが大きなトートバッグを開いた。中には、リナのお気に入りのぬいぐるみや絵本やブランケットが、ごちゃごちゃと入っている。ぼくはそこにゲーム機を放り込んだ。 「さあ、そろそろ出よう」  戻って来た父さんと母さんが、それぞれリュックを背負う。ぼくも自分の荷物を背負った。結構重いし、ごつごつしている。何が入ってるんだろう。 「ねむうぅい」 「ちょっとだけ我慢して。すぐ寝られるからね」  ぐずるリナをあやしながら、母さんが靴を履かせる。  ぼくは一足先に外に出た。
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