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真実
何もかも溶けて消えていく感覚。でも、温かい何かに包まれていた。まどろみのなかにいるみたいで。私はもっと冷たいところに逝くのかと思っていたわ。業を犯した私は、このような温かな場所にいるべきではない。
「そんなことはないよ。君は自分の願いのために投げ出さなかった。心が疲弊しても、絶対にやめるとは言わなかった。何人もの人を殺したのは悪いことだと思う。でも、君がそうしたから存在できる二つの命がある。一途な願いのためによく頑張ったね。ゆっくり、休むと良い。次に君が目覚めるときは、もう彼らには会えない。でも、君は幸せにならなければいけない子だよ。彼らもそう望んでいると思う」
和服を着た長い金色のを束ねた男性がいた。彼は翡翠の目で愛おしそうに小さな小さな真っ黒の玉となった私を撫で続けている。欠けていていびつな形の玉を。
「休息をとることで元通りとまではいかない。でも、時が経てば、傷の少ない玉に戻るだろう。おやすみ」
私の意識はゆっくりと沈んでいった。
「君は犯した罪を背負い続けていくのだろう。その重すぎる業をね。少しの悪意や負の感情を向けられただけで、君の魂は簡単に人の悪に傾いてしまうようになってしまった。けれど、君のおかげで助かったこともある」
あの神と人に分れた二つの魂は、世界の存在を吸い尽くして、自分たちが生き残ろうとしていた。消滅すること、死ぬことは誰だって恐ろしい。だから、無意識に自分の存在が消えないようにしていた。全くもって恐ろしい。あのまま世界があの魂に吸収されていたら、世界のバランスが崩れて、最悪何もかもが消し飛ぶ。
彼女が願いを叶えようと諦めずにあがき続けた結果、全てが丸く収まったとでもいうのかな。全ては、終わったことだし、細かいことを気にしても仕方ないよね。
「君はよく頑張ったよ。だから、選ばせてあげる。犯した罪の重さに左右される人間か、いろいろな世界を見守ることができる神の側近か。君が最高位の神である私の傍にいることを望んでくれると嬉しい」
他の神は、せっかく人間から神にしてあげたのに壊れてしまったからね。壊れたおもちゃは処分しなければいけないから、他の世界を支える柱となってもらったんだ。いわば、人柱ってやつ。その人柱が人間に害を与えていようが、何をして楽しもうがどうでもいいよ。世界を支えてくれればそれでいいのさ。壊れたおもちゃはそれが仕事なのだから。その点、彼女は壊さないようにしないとね。願いを叶えるために自分を犠牲にして、必死になる姿はとてもとても綺麗だった。
「綺麗な者は壊さないように細心の注意を払わないといけないから、神の側近という地位なのさ。神として独立してしまったら、守ることはできないと思うけど。あぁ、守るって言葉を君はよく言っていたな。彼らを守るって。うん、そうだ! 今度は私が君を守ることにするよ」
君に選ばせるのはやめた。君には、全てを忘れてもらうことにしよう。それでずっと私の傍にいるんだ。私が消えるその時までずっとね。これから先が楽しみだ。
「そうそう、世界の真理は純粋な神様が唯一私のみであるということくらいかな。人間を神にしたのは私だけれど、それが世界の真理と言われたら、そうでもない。だって、彼らは人柱だし、なくなったら補充できるものだからね。どれが、世界の真理なんだろうね。もしかして、彼女が純粋な神様であったかもしれないよ」
世界の真理なんて神である私もわからない。神はそんなことを気にしないし、興味もない。世界には真理も何もないよ。ただ、そこにあるだけ。理由なんてものはないんだ。ただ彼女は世界の在り方を知っていただけ。元々人間の神が、人柱であることを知っていただけだ。
「かの人と神に分れた二つの魂はまた別の存在だから、人柱ではないよ。では、何なのかと聞かれても私はわからない。世の中、知らない不思議があった方が面白くて良い。だから、その謎を解明はしなくてよし!」
世界の不思議なんてものは知らないから面白いんだ。解明して全てが分かってしまったら、興味が失せてしまう。だから、何もせずに見守っているだけで十分。そういうことは、人間が答えに辿り着こうとするから、彼らに任せておけばいい。生が短い人間が世界のことについて一つでもつかめたら、上出来だ。私たちは、余計なことはせずにただ見守っているだけでいいのさ。
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