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「……すれば?」
「え!?」
「え、って。すればいいじゃん。」
「あ、ありがとうございます……」
「いやいや。百合喜んでたろ?」
そう言った瞬間、またもや直樹が分かりやすく硬直する。
え、もしかして、あいつトチ狂ったのか?
「じ、実は……」
「……」
「まだ言えてなくて……」
「何じゃそりゃ」
かわいそうなくらいに縮こまって面目なさそうにしている直樹がちょっとおもしろいなと思いつつも、なぜこうなっているのかがよく分からない。
一体何をためらっているのか。
「お前がそう言ってくれたら、百合だって嬉しいだろ。」
「……そうでしょうか」
「え。もしかして、断られる可能性考えてる?」
「……」
最初のビールがまだ残っているグラスを両手で握りしめて沈み込んでいる直樹を前にして、何がどうなったらそうなるのかと疑問しか湧いてこない。
そんなとき、注文していた冷酒と串焼きの盛り合わせがタイミングよく運ばれてきたので、とりあえずお猪口を彼の手に無理やり握らせる。
「ま、頑張りな。とりあえずうちの家族は反対しないから。」
「千尋さん……」
「百合がダメだったら、次があるよ。うちの会社でも大人気だしな。お前。」
「違、……嫌ですよ!俺は百合がいいんです!」
冗談なのにムキになる直樹のことを、かわいいなと思う。
そして、彼がそう言い切ってくれることを、嬉しいなと思う。
二人がそうなってくれればいいと思っていたのは、俺だけではない。
肩の荷が少しおりたような心地がして、そこからは互いの酒もいつも以上に進んだのだった。
Fin.
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